もしあなたが突然、社長に就任することになり、会社の経営を立て直さなければならなくなったとしたら、どうしますか? 『なるほど、そうか! 儲かる経営の方程式』(相馬裕晃著、ダイヤモンド社、8月22日発売)は、つぶれそうな会社をどうしたら立て直せるのかをテーマにしたストーリー仕立てのビジネス書です。主人公は、父親に代わって急きょ、経営トップに就くことになった27歳の新米社長・千葉早苗。本書のテーマは、MQ会計×TOC(制約理論)。MQ会計とは、科学的・戦略的・誰にでもわかる会計のしくみのこと。MQ会計をビジネスの現場で活用することにより、売上至上主義から脱して、付加価値重視の経営に舵を切ることができます。もう1つのTOCは、ベストセラー『ザ・ゴール』でおなじみの経営理論。経営にマイナスの影響をもたらす要因(ボトルネック)を集中的に改善することにより、企業の業績を劇的に改善させることができるというものです。本連載では、同書から抜粋して、MQ会計×TOCでいかに経営改善できるのかのポイントをお伝えしていきます。
【あらすじ】
東京墨田区にある老舗時計部品メーカー「千葉精密工業」は、製造部と営業部の行き過ぎた部分最適の結果、業績が悪化。米国ファンドから出資を受け入れて危機を一時的に回避したが、1年後に業績が回復しなければ経営権が完全に奪われてしまう事態に。
新米社長の千葉早苗は、会計士でコンサルタントの川上龍太のアドバイスを得て、MQ会計やTOCの理論を学び、経営の立て直しを図るが……。果たして、早苗は1年で会社を立て直せるのか?
え、デューデリジェンスって?
週が明けた4月18日の10時ちょうど。千葉精密の玄関前に黒塗りのレクサスLSが横付けされ、投資ファンドのチームがやってきた。
「ハーイ! アイム サナエ チバ」
早苗は緊張しながら、久しぶりに話す英語で自己紹介をした。
「サナエさん、はじめまして。ポールです。日本語でいいですよ。よろしくお願いします」
男は、190cmを超える長身だった。アメリカの企業再生ファンド「ブラック・シップス」代表のポール・アンダーソンである。
伊藤の話によると、アンダーソンはハーバード・ビジネス・スクールでMBAを取得し、世界屈指のヘッジファンドのファンドマネジャーを経て、「ブラック・シップス」を設立した。ファンド業界では知らない人はいない有名人とのことだ。
さっそく、同席した島田が会社概要について説明を始めた。話題がムーブメントの話になると、アンダーソンはムーブメントの実物を「ジュエル・ボックス(宝石箱)!」と言って手放しに褒め、工場見学を願い出てきた。
会社のためになるなら、と早苗は考え、その意向はすぐ受け入れた。
アンダーソンとその一行は、英語が得意な智子の説明に熱心に聞き入った。女性社員がピンセットを使って、小さな香箱の中にぜんまい、歯車、ルビーなどの部品を丁寧に埋め込みムーブメントを完成させていく様子を見ては、アンダーソンはカメラに収め、女性社員には笑顔で話しかけている。
「サナエさん。千葉精密の技術は素晴らしいですね。この後、デュー・デリジェンスを行ったうえで、投資を判断します!」
デュー・デリジェンス(DD)とは、企業投資を行う際に、その企業の事業性や財務状況などの実態を詳細に調査することだ。
千葉精密は、ブラック・シップスからの投資を受けるにあたって、監査法人系列のコンサルティング会社「SBC」からDDを受けることになった。
SBCから送られてきた、DDに必要な依頼資料一覧を見た早苗と吉田は驚愕した。会社の登記簿謄本、定款、会社案内といった基本的な情報以外に、取締役会議事録、株主名簿、会社組織図、財務諸表3期分、税務申告書、事業計画、資金繰り表、主要取引先別売上など会社に関連するありとあらゆる資料が要求されたのだ。
依頼資料の準備は、吉田を中心に製造部、営業部の助けも借りながら夜を徹して進められた。現地調査前日の夜にようやくすべての資料を準備できたほどだった。
DDの現地調査当日。千葉精密にSBCから4人の公認会計士がやってきた。早苗、島田、山崎の取締役3人、加えて吉田も財務関係について細かくヒアリングされた。