もしあなたが突然、社長に就任することになり、会社の経営を立て直さなければならなくなったとしたら、どうしますか? 『なるほど、そうか! 儲かる経営の方程式』(相馬裕晃著、ダイヤモンド社、8月22日発売)は、つぶれそうな会社をどうしたら立て直せるのかをテーマにしたストーリー仕立てのビジネス書です。主人公は、父親に代わって急きょ、経営トップに就くことになった27歳の新米社長・千葉早苗。本書のテーマは、MQ会計×TOC(制約理論)。MQ会計とは、科学的・戦略的・誰にでもわかる会計のしくみのこと。MQ会計をビジネスの現場で活用することにより、売上至上主義から脱して、付加価値重視の経営に舵を切ることができます。もう1つのTOCは、ベストセラー『ザ・ゴール』でおなじみの経営理論。経営にマイナスの影響をもたらす要因(ボトルネック)を集中的に改善することにより、企業の業績を劇的に改善させることができるというものです。本連載では、同書から抜粋して、MQ会計×TOCでいかに経営改善できるのかのポイントをお伝えしていきます。
【あらすじ】
東京墨田区にある老舗時計部品メーカー「千葉精密工業」は、製造部と営業部の行き過ぎた部分最適の結果、業績が悪化。米国ファンドから出資を受け入れて危機を一時的に回避したが、1年後に業績が回復しなければ経営権が完全に奪われてしまう事態に。
新米社長の千葉早苗は、会計士でコンサルタントの川上龍太のアドバイスを得て、MQ会計やTOCの理論を学び、経営の立て直しを図るが……。果たして、早苗は1年で会社を立て直せるのか?
久しぶりの再会
5月5日、こどもの日。今日は早苗の母校「隅田川第三中学校」で剣道部OB、OGによる大会が行われていた。
早苗は小学3年生のころから剣道を習い始め、中学校、高校では全国大会に出場した経験があり、三段の腕前だ。
しかし、社長になってからというもの、竹刀をまったく握っていなかったせいか、トーナメントの第一回戦で格下相手の後輩に2本先取され、あっけなく敗退してしまった。
早苗は憮然として体育館を後にした。なぜか無性に、風にあたりたかった。
「よぉ! さなえ!」
突如、聞き覚えのある陽気な声が聞こえた。早苗が振り返ると、口と顎に髭を生やした剣道着姿の男性が立っていた。
「りょ、りょうた先輩?」
「久しぶり! 前会ったのは3年ぐらい前だよな?」
川上龍太は2つ上の先輩だ。早苗が中学校の剣道部に入部したとき、男子剣道部の部長を務めていた。爽やかだった川上が、ワイルドな雰囲気をまとっている。
「おっ、おひさしぶりです!」
「さっきの試合、見せてもらったよ。らしくないじゃん?」
「へへ。練習不足ですね……」
早苗は力なく笑ったが、川上は早苗の顔を覗き込むようにじっと凝視した。
「ちょ、ちょっとなんですか?」
早苗は川上の視線をこらえきれず、目をそらした。頬が赤らむ。中学生時代の早苗にとって部長を務めていた川上は憧れの存在だった。
「ははぁーん。さなえ、恋愛のことで悩んでいるな?」
「ど、どうしてそうなるんですか! そんなことで悩んでいません!」
川上からの思わぬ言葉を受け、早苗の語気が強くなった。
「まぁ、誰だって悩みの一つや二つはありますよ!」
「部員の悩みを聞くのも部長の役目だ。俺でよかったら相談に乗るよ」