ダイヤモンド社より刊行された『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』がベストセラーとなっている株式会社 刀CEO・森岡毅氏。彼は倒産確実と言われていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を、わずか数年で世界第4位のテーマパークにまで導いた「日本最強マーケター」と称される人物だ。2017年にはマーケテイング精鋭集団「刀」を起業し、USJ時代に果たせなかった沖縄のテーマパーク事業を復活させ、丸亀製麺やネスタリゾート神戸(旧グリーンピア三木)をV字回復させるなど、めざましい成果を出し続けている。
 今回、新たに発表されたのは、農林中金グループの「農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)」との協業である。金融にマーケティングを導入することで、森岡氏は日本にどんなインパクトを与えようとしているのか? 刀の森岡毅CEOと農林中金バリューインベストメンツの奥野一成CIOのインタビューから、それを明らかにする。
(取材/ダイヤモンド社・亀井史夫 撮影/吉場正和)

老後2,000万円問題は、
お上に甘えてきたことのツケ

森岡 毅(もりおか・つよし)
戦略家・マーケター。高等数学を用いた独自の戦略理論、革新的なアイデアを生み出すノウハウ、マーケティング理論等、一連の暗黙知であったマーケティングノウハウを形式知化し「森岡メソッド」を開発。経営危機にあったUSJに導入し、わずか数年で劇的に経営再建した。1972年生まれ。神戸大学経営学部卒。1996年、P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表等を経て2010年にユー・エス・ジェイ入社。革新的なアイデアを次々投入し、窮地にあったUSJをV字回復させる。2012年より同社チーフ・マーケティング・オフィサー、執行役員、マーケティング本部長。2017年にUSJを退社し、マーケティング精鋭集団「刀」を設立。「マーケティングで日本を元気に」という大義の下、数々のプロジェクトを推進。USJ時代に断念した沖縄テーマパーク構想に再び着手し注目を集める。著書に、『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(KADOKAWA)、『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(KADOKAWA)、『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(共著、KADOKAWA)、『マーケティングとは「組織革命」である。 個人も会社も劇的に成長する森岡メソッド』(日経BP社)、『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』(ダイヤモンド社)

 今春、金融庁が「退職後に2,000万円足りなくなる例がある」と報告し、麻生財務大臣の発言も相まって大きな物議を醸した。多くの人が、「そんなの無理だ、なんとかしてくれ」と嘆き、政府の無策を叩いた。

 しかし、それほど単純な問題ではないはずだ。デフレが長期化して国内の消費活動が縮小し、企業は生涯雇用どころか退職金さえも満足に払えない状況になっている。少子化トレンドを踏まえると、年金基盤の厚みが今後徐々に先細っていくことは、30年前からわかっていたことだ。

 刀の森岡CEOは、日本人の考え方そのものを変えるべき時代に突入していると言う。

「日本は資本主義国家であるにもかかわらず、まるで社会主義国家のような成長をとげてきました。成人して会社員になれば、生涯の職は保障され、退職時には多額の退職金が与えられ、さらに十分な年金がもらえた。自分で何かを考えなくても、お上の言うとおりにしていれば幸福な老後を迎えることができたのです。でもそれは、戦後、右肩上がりの経済成長が続いていたからです。もはや、お上に頼るばかりで一生安泰に暮らせる時代は終わりました。自分の将来は自分で守ることが必須になったのです」(森岡氏)

 このままでは、多くの日本人が豊かな人生を送れなくなってしまう。「マーケティングで日本を元気に」を理念として活動する森岡氏は、老後の不安に囚われて消費意欲が停滞する今の日本の構造を打破する策がないかずっと考えていた。

 そんなとき、世界屈指の機関投資家「農林中金グループ」で辣腕を振るうファンドマネージャーに出会った。