ダイヤモンド社より刊行された『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』がベストセラー街道を邁進中の株式会社 刀CEO・森岡毅氏。彼は倒産確実と言われていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を、わずか数年で世界第四位のテーマパークにまで導いた稀代のマーケターとして知られる。しかし沖縄でテーマパーク構想に取り組んでいること以外は、刀がどんな案件に取り組んでいるのかは伏せられてきた。
 だがついに、刀のマーケティングノウハウで実績を挙げた企業が発表された。「丸亀製麺」などを展開する株式会社トリドールホールディングスである。うどんチェーンとして全国展開していた丸亀製麺だが、昨年から既存店客数が16ヵ月連続で前年割れするという負のスパイラルに陥っていた。その丸亀製麺に、森岡氏はどんな施策を打ったのか? トリドールの粟田貴也社長と刀の森岡毅CEOのインタビューからそれを明らかにする。
(取材/ダイヤモンド社・亀井史夫 撮影/吉場正和)

フェアをやっても客足が戻らない。
アリ地獄にはまっていた丸亀製麺

粟田貴也(あわた・たかや)
1961年、兵庫県神戸市生まれ。神戸市立外国語大学中退。学生時代のアルバイト経験を通じ飲食業の魅力に目覚める。1985年、焼鳥居酒屋「トリドール三番館」を創業。2000年に現在の主力店舗である「丸亀製麺」を立ち上げ、2006年に東京証券取引所マザーズ市場に上場、2008年に東京証券取引所第一部に上場する。現在は「丸亀製麺」を中心に全世界1600店舗を数え、グループ売上1100億円を稼ぎ出す一大外食チェーンに育て上げた。

「丸亀製麺」は、2000年に1号店を開店。以後、順調に全国展開し、全国で820店舗(海外200店舗)の大型チェーンに成長した。しかし昨年から客足が鈍るようになり、毎月前年割れが続くという危機に見舞われていた。なぜ客足が遠のいているのか? 明確な理由がわからない。以前なら新メニューなどを押し出す期間限定のフェアを打てば客足は戻ってきた。だが最近はフェアをやっても反応が鈍い。何をすればよいのかわからない。
「いつのまにかお客様の心がつかめなくなっていました。これはもう外部の方に客観的に分析していただくしかないと思いました」(粟田社長)

 日本でトップのマーケターに相談してみよう。関西育ちの粟田社長は、あれほどの惨状にあったUSJが見事に復活したのを目撃していた。森岡毅氏の手腕に期待するものがあった。粟田社長は刀の森岡CEOにアプローチし、現状の不安を伝えた。
「丸亀製麺を始めたのは、父の故郷である香川県を訪れた際、小さな製麺所にお客様が列をなしているのを見たのがきっかけでした。これだ、と思ったのです。できたての麺を、その場で食べていただく。これほど感動的な食体験はありません。だから我々はすべての店舗に製麺機を置き、すべてのうどんを国産の小麦粉から作っています。作り置きもしません。できたての美味しいうどんを味わっていただきたい。そこにこだわって工場やセントラルキッチンを持たずに、ひたすら「できたてのおいしさ」を実直に展開してきました。過去に売上が鈍ったこともありますが、そのときはフェアを行って乗り切ってきました。しかし最近、フェアがきかなくなってきたのです」

 粟田社長の言葉を聞いて、森岡CEOは「この会社にはブレない軸がある」と感じた。「手作りの麺をその場で食べてもらう」という一貫したコンセプトにはわずかなブレもない。自分たちが何をやりたいのかがわかっている。

 実は丸亀製麺の方針は、いわゆる「チェーンストア理論」の真逆を行くものである。多くのチェーンで採用されているチェーンストア理論とは、全国をいくつかのブロックに分けて工場(セントラルキッチン)を造り、そこから各店舗に商品を配送するシステムが柱になる。そのスケールメリットは、店舗数が増えるほど大きくなる。丸亀製麺のようにすべての店舗に製麺機を置いて製造していては、効率が悪いのだ。

 森岡CEOは刀の精鋭チームを投入して調査を開始した。様々なデータを分析し、得意の数学マーケティングを駆使して市場の目に見えない真実を幾つも解き明かした先に、確かな「勝ち筋」があることをつかんだ。その戦略を聞かされた粟田社長は驚いた。驚くと同時に、ありがたく感じたという。