人気社会派ブロガー・ちきりんさんが、自宅をリノベーションした経験をもとにまとめた『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』。見積もり、助成金申請、工事の過程に至るまでを詳細に記した同書は、発売から半年を待たずに「リノベーションを検討する人の必読書」と言われるまでになっている。

株式会社N's Create.の代表・丹野伸哉氏も、同書に衝撃を受けた1人。N's Create.は、宮城県仙台市で中古マンション物件を中心にリノベーションを手掛ける不動産ショップを主な事業とし、国内最大級のリノベーションブランドである「リノベ不動産」にも加盟している企業だ。

マンション建築が地方都市でも進むなか、これからの選択肢にリノベーションは欠かせなくなるはずだが、現在の実情はどうなのか? 丹野氏を対談のゲストとしてお迎えし、「地方×リノベ」のリアルを探る連載を全3回にわたってお届けする。(構成協力/長谷川賢人)

地方の中核都市・仙台のリアルな「住宅事情」

ちきりん 今日はご足労いただき、ありがとうございます。御社は仙台でリノベーション事業を手がけていらっしゃるということなので、まずは仙台の住宅事情についてお聞きしたいです。

地方は衰退していると言われますが、仙台や福岡など中核都市は人も集まるし不動産もちゃんと売れる。景気もそこまで悪くないですよね? 仙台だと復興需要もありそうだし。

丹野伸哉(たんの・しんや)
N’sCreate.代表取締役社長
宮城県仙台市出身。専門学校にてインポートビジネスを学びヨーロッパ主にイギリス)輸入家具の取引や都内の有名ホテルのオーダー家具を製作・販売等に携わる。2010年に同社社長(現会長)結城創氏と社内リノベ部門を立上げ、2011年に本格的にリノベーション事業を始動。2014年、リノベーション部門を分社化した。2018年4月より同社代表取締役社長に就任。仙台という街が自分達の暮らしたい街になり、より豊かになればという思いを持ち、住宅以外にも店舗やビルなど様々なリノベーションプロジェクトを行っている。[写真提供:丹野伸哉]

丹野伸哉氏(以下、丹野) そうですね。震災から8年がたち、復興需要に関しては今年から少しずつ景気も震災前の通常の状態に戻りつつあると思います。現に賃貸の価格も震災需要で上昇していましたが、震災前の賃貸価格に戻りましたし、今年から、経営も厳しい会社も出てきている状況を金融機関も警戒しはじめているようです。復興需要が終わって次のステージに移ろうとしていると、強く感じますね。

ちきりん 空き家問題はどうですか?

丹野 仙台の中心部から離れた郡部では空き家問題が始まってきていますが、中心部は人口も伸びているので、まだそこまで大きな問題ではありません。

ちきりん 仙台だとマンションと戸建てはどちらが好まれるんですか?

丹野 立地や予算などがあえば戸建てですね。地下鉄もありますが、仙台は基本、車社会のため駐車場が必要とする人の方が多いため、戸建てのほうが人気があると思います。

ちきりん それはこれからも変わらないのかしら?

丹野 中期的には大きく変わらないかと思いますが、長期的にみたらどうでしょう。若い世代だと職場が中心街という人も多いですし、昔と違ってみんな同じ家に35年住み続けるわけでもありません。

ライフスタイルが変わって貸したり売ったりというニーズが出てくると、郊外の一戸建てより中心街のマンションのほうが流動性が高いですし。アクセスのいいところに資産価値のある中古不動産を買って、自分らしい暮らしのためにリノベするというのも選択肢になってくると考え、(リノベ事業を)やっています。

ちきりん 東京ではここのところ「中古+リノベ」への関心が高まってるんですが、これは新築マンションがめちゃくちゃ高騰してるからです。でも地方だとまだ頑張れば(新築でも)買えちゃうぐらいの値段ですよね?

丹野 とはいえ、仙台圏の新築マンションだと坪単価188万円ぐらいします。平均価格では4236万円ですね。

ちきりん けっこう高いんですね!

丹野 地下鉄の駅から少し離れたりすると多少価格は安くなりますが、中心部はそれくらいします。

【データ出所】首都圏2018新築マンション:(株)不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向―2018年のまとめ―」/首都圏2018中古マンション:(公)東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向(2018年)」/宮城県2018新築マンション:株式会社DGコミュニケーションズおよび河北新報社報道/宮城県2018中古マンション:「シーカーズアイ」(2019年7月号)
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ちきりん 一戸建てはどれくらいするんですか?

丹野 郊外でも地下鉄の駅徒歩10分圏内の場合、土地を買って建てると 総額で5~6千万円ぐらいでしょうか。半分が土地・諸費用代、半分が建物代ですね。建て売りだと3千万円台。4千万を切るとすんなり売れる感じです。

ちきりん じゃあ中古マンションを買ってリノベする場合は?

丹野 築年数によりますが、築30年~40年近い物件だと1千万円前後くらいで購入できるため、弊社のお客様の場合、平均1千万円前後くらいの費用をかけてリノベーションするというのが、とても多いです。

ちきりん えっ、中心部でも1千万円で買えるんですか? 築年数が古いとはいえ、かなり安いですね。

丹野 それくらいが多いですね。マンション購入費にリノベ代を含めても2千万円~2500万円です。

ちきりん なんと……フリーランスなら東京で働いている人も仙台に住んで、出張で東京にくればいいんじゃないかと考えちゃいます(笑)。

リノベ需要を顕在化させられていない地方の現状

ちきりん そこまで安いなら、中古マンションを買ってリノベをする人も多そうですが。

丹野 それが、そうでもないんです。仙台だと中古マンションを買ってリノベーションするのは年間せいぜい150件くらいじゃないかと。

ちきりん それは少ない。仙台って100万人都市ですよね?

丹野 ですね。ちなみに新築の供給戸数が去年の数字で1300戸ぐらいなんで、中古を買ってリノベする人は新築市場の10%ぐらいではないかと。買取再販を入れてもプラス200件ぐらいでしょうか。

ちきりん 買取再販って、いわゆるリノベ済み物件って言われるものですよね。私たち消費者は「リノベ済物件を買うか、それとも、自分でリノベするか」と比べることが多いんです。でもリノベ業者さんにとっては、この2つはまったく違うんですよね?

丹野 一戸建てにおける注文住宅と建て売り住宅がまったく違うように、リノベ済み物件(買取再販物件)と、お客様から個別に注文を受けるリノベ事業はかなり違います。

建て売りや再販物件では原価の安い、でも見栄えはする商品を統一して使い、できるだけ安く、いまのトレンドに合うように作りますから。

ちきりん なるほど。それとは違い、自分でリノベするというのは注文住宅を建てるのに近い行為だってことですね。

丹野 そうですね。

ちきりん で、御社は年間どれくらいのリノベを手がけていらっしゃるんですか?

丹野 年間30件ぐらいでしょうか。再販物件が10件から15件ぐらいなので、合わせると50件弱です。

ちきりん 仙台全体で年間150件くらいしかリノベが行われてないのに、そのうち30件を御社が手がけてらっしゃるんですか?

丹野 仙台だとうちを含め数社が、それぞれ年間30件くらいのマンションリノベをしているという状況かもしれません。ただ、私がお話しているのは、あくまでスケルトンにして、断熱工事などを行い一新してしまうリノベーション工事のことです。中古マンションを購入し一部リフォームなどの件数を入れてしまえば、もっと数は増えてくるかと思います。

ちきりん 繰り返しますが仙台って100万人都市ですよね? スケルトンに限ったとしても、リノベする人が年間150件とはちょっと少ない気が。

丹野 なのでそこをなんとかしていきたいというのが、うちの思いでもあるんです。人口減少だとか空き家の増加だとか考えると、必ずしもみんなが新築の戸建てを建てる必要はないですから。

地方×リノベで課題になる「施工業者の実力不足」

ちきりん 地方でリノベが少ない理由はどこにあるんでしょう?

丹野 自社も含めてですが、事業者側の問題なのではないか思っています。要は、欲しいと思っていただいたうえに、安心してこれなら、という良いサービス提供ができていないんじゃないかと。ニーズはもっとあると思うんですけど。お客さんに安心してリノベを選んでもらうことができていない。そこが一番かと思っております。

ちきりん
関西出身。バブル期に証券会社に就職。その後、米国での大学院留学、外資系企業勤務を経て2011年から文筆活動に専念。2005年開設の社会派ブログ「Chikirinの日記」は、日本有数のアクセスと読者数を誇る。シリーズ累計30万部のベストセラー『自分のアタマで考えよう』『マーケット感覚を身につけよう』『自分の時間を取り戻そう』(ダイヤモンド社)のほか、『「自分メディア」はこう作る!』(文藝春秋)など著書多数。

ちきりん それで私の本を読んでくださったんですね。

丹野 はい。ちきりんさんの本を読んで、サービス面だったり市場的な部分だったり、我々のまだできていない部分がたくさんあるんじゃないかと思ったんです。

だからお話をして我々のサービス向上につなげ、他の会社にも「お客さんが悩まれる部分、困る部分ってこういうところなんだよ」と発信したいと考えました。

ちきりん それはありがたいです。で、多くの業者は、具体的にはどんなニーズに応えられていないと思っていらっしゃるんですか?

丹野 大きく分けると3つあると思っています。まずは営業というかコンサルティング力の不足です。

お客様側も住宅を購入するにあたって、何がいいか判断基準がわからないという方もいます。そういうお客様から、いまどういう生き方をされているかを聞き出し、そのうえで今後の暮らし方を踏まえた最適な提案をする、みたいなことができてないのではないかと思っています。

ちきりん なるほど。2番目はなんですか?

丹野 2つめは設計フェーズでの限界です。設計者はライン引きは上手ですけど、もっとディテールへのこだわりを汲み取らないといけない。インテリア、デザイン、最適な収納方法……あらゆるところでお客様の要望をうまく聞き出す。その上で、御用聞きではなく、直すべきところは指摘をして調整しながら、ニーズをきちんと整理してデザインへ落とし込む。そこまでやれる人や会社がまだ少ないですね。

ちきりん そこまでしてもらえたらすごい(笑)。3つめは?

丹野 工事の管理ですね。マンションは共同住宅なので、近隣対策も必要です。それと施工管理の品質。新築だったらビシッとやっていることでも、意識のどこかで「中古だから」と品質管理を突き詰めていない部分が見受けられてしまう。

ちきりん コンサルティング営業、設計、そして施工。リノベの各プロセスにおいて、まだまだ足りない部分があるってことですね。そうなってしまった原因はどこにあるんでしょう? 

問われる「復興需要後」の経営力

丹野 東北は復興需要があったせいで、ここ8年ぐらい何もしなくても、って言ったら語弊があるかもしれませんが、勉強しなくても成績が上がっちゃう会社がたくさんありました。そうするとやっぱり全体的にスキルが上がっていかないと感じています。

ちきりん 復興需要が一段落するこれからが勝負なんだ!

丹野 それと、ご存じのように仙台は典型的な支店経済の都市で、人口は多いんですが京都とか福岡に比べると個性というか、もっとこんな暮らししたい!こんな家が作りたい!といった要望をお持ちの方がちょっと少ないような感じもしています。

私達は「豊かさとは自分らしく前向きに生きることだ」と考えているんですが、住宅で自分らしさを追求するには、住む場所だったりこだわりを実現していくためには、リノベーション住宅の方が叶いやすいと思うんです。

ちきりん たしかに私もリノベをしてみて、リノベの価値は古い設備が新しくなることではなくオリジナルな住まいが作れること、自分の暮らしにぴったりな家が作れることなんだと理解できました。

管理組合向けの「まともな」コンサルが必要

ちきりん 中古を買ってリノベして、自分らしい住まいを作ることは本当にすばらしいと思うんですが、同時にマンションって適切に管理されないと、古くなるにつれ価値がゼロになるというか、誰も借りてくれないし買ってくれなくなる。そこのリスクについてはどう思われますか?

丹野 今、マンションの大規模修繕工事はその大半が修繕の範囲にとどまっています、本当はそうじゃなくて、より積極的に資産価値を上げるような改修もできるはずだと思っています。

ちきりん エントランスのデザインを変えてしまうとか?

丹野 そうですね。ほかにも古いマンションでも住宅ローン控除が組めるよう、耐久性や耐震性で抜本的な改修をしたりとか。

あと、海外だと有名デザイナーを呼んでデザインから変更するケースもあるんですけれども、日本ではそういう文化がありません。共用部や外周のデザインも含め、もっと建物の資産価値を積極的にあげる方法を考えないと、中古の流通は増えていかないのではと感じます。

ちきりん たしかに専有部分をリノベーションする人は増えているけど、共用部分に関してはリノベーションじゃなくて、壊れたところを直すだけといった改修がほとんどな気がします。

丹野 理想を言うと、買ったときと同じ金額で売れる、みたいな大規模修繕が望ましい。ただ、われわれ1社じゃ、ちょっとどうしようもできない。

ちきりん ですよね、住民がたくさん住んでるマンションで、大金をかけて共用部分全体をリノベするのは大変すぎる。さすがに地方でも(個社で)丸ごと買って直すことはできないでしょ?

丹野 そうですね。だからやり方としては、中古マンションの流通しやすくなるような、管理組合にコンサルティング的な立ち位置で入っていくという……。

ちきりん 管理組合むけの建築コンサルティングって、イマイチいいイメージがないんですけど(笑)。

丹野 首都圏だと大規模修繕のコンサルの会社さんもたくさんありますが、コンサルティング会社といっても様々あり、全部が全部よい会社さんとは限らないと、よくお話を聞きます。

ちきりん マンションの大規模改修を狙う悪徳コンサルはすごい問題になってますよね。でもおっしゃる通り、もっとちゃんとした管理組合向けのコンサルが現れれば、古くても価値の下がらないマンションにできるかも。難しそうだけど、すごく前向きな話だと思います。 (続く)

補足:知っておきたい「住宅業界」のキーワード

・注文住宅/建て売り住宅
注文住宅とは施主の要望に沿って、設計され建てられる「オーダーメイド」住宅のこと。原則として土地は施主が用意する。一方、建て売り住宅は、事業者が建てた家を土地付きで分譲(販売)するもの。購入後すぐに住み始められるが、間取りや設備の同じ住宅が複数戸同時に販売されることも多い。
前者は「家を建てる」、後者は「家を購入する」という形となる。

・ハウスメーカー/パワービルダー
ハウスメーカー(住宅メーカー)は、主に「注文住宅」を手掛ける事業者。住宅展示場などにモデルハウスを作ってポテンシャル顧客を集め、一戸建ての建築を請け負う。
パワービルダーは、大規模に土地付き一戸建ての「建て売り住宅」開発を手掛け、分譲する事業者。間取りや仕入れ部材の共通化や施工期間の短さなどから、注文住宅よりも坪単価が安い場合が多い。

・買取再販業者
中古住宅(一戸建て・マンション)を購入し、リフォームやリノベをして再販売する不動産会社のこと。彼らが手がけ、リノベ済み物件として売られる中古マンションや戸建て住宅は「再販物件」と呼ばれ、中古住宅ではあるが、表面的には新築のように見える。