社会派ブロガーとして人気を博す、ちきりんさんの最新作『徹底的に考えてリノベをしたら、みんなに伝えたくなった50のこと』発刊を記念し、LIFULL HOME'S総研所長であり、一般社団法人リノベーション住宅推進協議会の設立発起人でもある島原万丈氏との対談が実現。現代の日本が「住」に抱える問題点が次々に浮かび上がっていく。

対談第2回では、住宅メーカーを取り巻く「構造のねじれ」が見えてきた。しかし、それは業者にだけ非があるわけではない。消費者が生み出した圧力でもあったようだ。(第1回はこちら。)

BtoCのように見えて、完璧なるBtoBのビジネス

ちきりん 日本って中小企業をつぶしてはいけないという気持ちが強すぎて、そのコストを消費者や労働者に払わせるんですよね。「働き方改革」だって、大企業には厳しいルールを課すけど、小さな会社には猶予期間を設け、事実上ルールを守らなくていい、みたいにする。労働基準法を守らせたらつぶれる中小会社がいっぱいあるからでしょうけど、そのしわ寄せはそこで働く人が背負わされてる。

島原 大企業も挟持をもって品質を引き上げていく方向に旗を振りたいところもある。けれども足元のマーケットを見ると、これ以上価格を上げたら消費者がついてこないという現実もあります。

たとえば、中小地場でもレベルの高い工務店は、大手企業とも遜色ないかそれ以上の性能のものを建てられます。ただ、ひどいところは本当にひどい。そのバラつきがある中で、大手ハウスメーカーとしては基準をある程度のところまで引き上げておきたい。つまり、技術力の低いところと価格競争をしたくない思いがある。

けれど、引き上げすぎると足元の商売にも影響が出てきてしまいます。そこで最も譲れない線として「市場が縮小しないこと」が挙がってくる。国も国交省としても国策のせいで不況になったりしたら政治家からの追求があるでしょうし、絶対に避けたいはずですから。

ちきりん たしかに建設業界は、最上部に位置する巨大企業と、前線の仕事を担う現場の会社の規模がほんとうに大きく違いますよね。樹脂製の二重窓を製造しているのはYKKのようなグローバル企業でも、サッシ窓を取り付ける全国の工務店は家族経営みたいな規模だったり。そんな彼らが扱えない商品ばかりにしてしまうと、市場自体が潰れてしまいかねないってことか。

島原 ええ、まさにそうです。YKKなどのメーカーからすれば、得意先は圧倒的に工務店ですから。

ちきりん その部分も今回のリノベで実感しました。建材メーカーや住宅設備メーカーは「施工が必要な商品」を作っているから、不動産会社、建設会社、リノベ会社、もしくはそれら商品専門の卸会社が「自分達のお客様」だという意識が強い。

このため「施工がラクになる製品」の開発には熱心ですが、消費者の意向を汲むことには疎い。床材やサッシ、キッチンとかトイレみたいな住宅設備って、一見BtoCビジネスのようにみえて実は完全にBtoBビジネスなんだなって痛感しました。消費者としては、キッチンで洗い物を入れるカゴを置く場所を確保することのほうが、給水管のつなげやすさよりもよっぽど大切だったりしますから。

島原万丈(しまはら・まんじょう)
株式会社LIFULL LIFULL HOME’S総研 所長
1989年株式会社リクルート入社。グループ内外のクライアントのマーケティングリサーチおよびマーケティング戦略策定に携わる。2005年よりリクルート住宅総研へ移り、ユーザー目線での住宅市場の調査研究と提言活動に従事。2013年3月リクルートを退社、同年7月株式会社LIFULL(旧株式会社ネクスト)でLIFULL HOME’S総研所長に就任し、2014年『STOCK & RENOVATION 2014』、2015年『Sensuous City [官能都市]』、2017年『寛容社会 多文化共生のための〈住〉ができること』、2018年『住宅幸福論Episode1 住まいの幸福を疑え』、2019年『住宅幸福論Episode2 幸福の国の住まい方』を発表。主な著書に『本当に住んで幸せな街 全国官能都市ランキング』(光文社新書)がある。

ちきりん
関西出身。バブル期に証券会社に就職。その後、米国での大学院留学、外資系企業勤務を経て2011年から文筆活動に専念。2005年開設の社会派ブログ「Chikirinの日記」は、日本有数のアクセスと読者数を誇る。シリーズ累計30万部のベストセラー『自分のアタマで考えよう』『マーケット感覚を身につけよう』『自分の時間を取り戻そう』(ダイヤモンド社)のほか、『「自分メディア」はこう作る!』(文藝春秋)など著書多数。

島原 ちきりんさんは本書でも「価格のからくり」について、キッチンを例に書かれてますよね。「定価は100万円のものが、うちなら50万円で入れられますよ」って、いったいどんな仕入れになってるいるのだと、不思議に思うのも無理はありません。でも、それが当たり前になってきているという恐ろしい業界で……。そこはおっしゃるとおり、完全なるBtoBならではの風習ですね。最近は、サンワカンパニーのように、消費者へ直接的に販売するメーカーも出始めてはいますが。

ちきりん 実はIKEAみたいに、元々BtoCのビジネスをやってる家具屋さんでもキッチンセットのバリエーションは多彩なんです。でも今回ちょっと話を聞きにいってみたけど、「これじゃあ売れないだろうな」みたいな売り方で呆れました。

島原 海外なんかでは大きなホームセンターへ行くと、「バスタブの替え方」みたいなマニュアルも含めて用意されていますし、ペンキで壁を塗ったりするのも日常茶飯事ですから、幼い頃からDIYできる素養が育っているのかもしれませんね。

あとは、欧米では定番商品の規格があまり変わらないんですよ。だから、どんどん取り替えられる。日本では10年ぐらいすると部品含めて廃番になっていたりします。極端な話をすれば、ドアノブが壊れただけなのに、部品がないからドア全体を交換するようなことが起こり得る。水洗も、窓のサイズも、日本はいろんなバリエーションがあるんですけど、それらが未来永劫あるとも限らないんです。

ドイツあたりのキッチンは優秀で、キッチンカウンターの下に洗濯機と乾燥機、それから食洗機が入っているのですが、モデルチェンジのたびにサイズが変わったりもしないから、シンプルに入れ替えできるんです。そういうのは、いいですよね。

その「陳腐化戦略」は誰のため?

ちきりん それと今回、キッチンで苦労したのが「魚焼きグリルは不要」という要望だったんです。あとは、作業スペースを大きくとるため「コンロを一口の小さなものにしたい」というリクエスト。ところが大手の国内メーカーではこれに対応できなくて。

そういうところも含め、ちょっと人と違うことをしようとすると対応してくれない。未だに大量に同じ商品を製造し、まったく同じような部屋(新築マンション)ばかりを大量に売ってる国なんだなと感じました。

島原 そうですね。日本のキッチンって、引き出しが出てきて自然に閉ったりとか、そういうところがやたら高機能なんです。

ちきりん そうそう。マニアックな細部の改善にはホント熱心ですよね(笑)

島原 まぁ、確かに最初は驚いたりもするんですが(笑)。システムキッチンの構成って、要は「シンク」と「ガスコンロ」と「ワークトップ」でしかなく、それに水道とガスをつないでいるだけですよね。グリルとシンクは買ってきて、ワークトップをオーダーメイドにできれば、作業スペースをものすごく広く取ることもできなくはないはず。

ちきりん 基本、キッチンメーカーは価格を高くする方向でしか商品開発をしないですよね。競争も激しいのだから一社くらい「うちならグリルレスにできます!」「うちのキッチンは作業スペースが他社の1.5倍です!」みたいに差別化すればいいのに……。

島原 家電製品と同じで「高機能化」と「付加価値」を志向するように商品開発されていますね。あるキッチンメーカーの方と話したこともあるんですが、基本的なキッチンの機能なんて、この何十年もさほど進化する必要はないじゃないですか。それでも、新製品をこれだけ出すというのは、料理の技術を上げているわけでもなく、キッチンライフの向上を図っているわけでもなく、単に「新製品効果」を狙っているのだと。

それは消費者向けではありながら、メインのターゲットは問屋なんですよね。問屋に「弊社の今期の新製品です」とアピールしたい。

ちきりん イノベーションのジレンマの営業版ですね。家電も同じ。すごく細かいところをちょっとだけ変えて「新製品です!」って言う売り方しか思いつかない業界が多い。

島原 でも、そんなに細かい改善をした高機能なキッチンを消費者が求めているのか、というと、必ずしもそうではない。「あれば便利」くらいで。

ちきりん 専門業者の施工の要らない商品だったら、今頃はIKEAやニトリに高いシェアを奪われているはず。彼らはBtoCなので、常に消費者目線だから。でも配送から施工まで、業界慣行が参入障壁になっててなかなか難しい。個人的には、ニトリはそこもわかってて、乗り越えてくるんじゃないかと期待してますけど。

島原 フローリングも、新製品の発表会を毎年行って、マーケティングで言うところの「陳腐化戦略」をどんどん取り、アップデートしているんですよ。

ちきりん 床材まで毎年、新商品がでるんですか!

島原 でも、消費者って、フローリングを毎年買い替えるわけじゃない(笑)。だから、消費者に対する陳腐化戦略なんて全く意味がない。

ちきりん 確かに……。

島原 だけど、問屋は毎年新しいものを仕入れて売るので、陳腐化戦略が効くんですよね。このBtoCとBtoBとのねじれが、やっぱり非常に大きい業界なんでしょう。

ちきりん そもそも日本は人口が減ってて、マーケットは縮小傾向です。平均所得も上がっていません。そんな中で毎年売上を上げるなんてムリゲーです。欧米なら縮小市場からは撤退する会社が出てきて計算があうけど、日本は「意地でも撤退しない」会社ばっかりだし。

本当は、世界で売れたら成長市場はいくらでもあるんです。でもそれができないから国内での小手先の戦いにはまってしまう。グローバリゼーションの遅れが、縮小市場でのニッチすぎる改善戦略につながってるという構図は、いろんな産業で共通してますよね。日本の生産性が低いのも、そういう「先のない戦い」ばかりやってるからじゃないかと思います。

消費者のクレームが画一的な家を作らせていく

島原 ただ、一方で、そうさせているのは消費者である、という一面もあるとも考えています。先ほど例に挙げたフローリングも、あるメーカーの新製品には触ると無垢材のように「でこぼこ」を感じるプリントがあるんです。天然木のような質感を持ったシートフローリングなんですね。すごい……けれど、果たしてそこまで開発する必要があるのか?と。

ちきりん そこまでするんだ!

島原 極論すれば、フローリングなんて木材を切ってきて、床に張るだけです。それよりも工場でいろんなものを混ぜ合わせて成型したところに、高度な技術を使ったプリントを入れるほうがコストは高いに決まっているんだけれども、大量生産できるなら安く上がります。

ちきりん なるほどー。同じモノを大量に売ることを前提としての商品開発なんですね。

島原 あとは、施工性の問題です。工業製品のフローリング材が開発される前、昔の板の間は無垢材だったんですが、無垢材は湿度などの影響で膨らんだり、反ったりするわけです。施工にはそれなりの知識と技術が必要です。自然木が呼吸して反ったり隙間が空いたりするのを「不良品だ」といってクレームをつける消費者もいて。

ちきりん 有機栽培の野菜を買って「虫がついてた」とクレームする消費者と同じですね。木は生き物なんだから仕方ない。自然物というのはそういうもの。

島原 無垢材は経年で色に深みが出たり、傷がついても味になるし、手入れをすれば長く保てるし、最後にはどうしても気になるならサンダーで削れば平らになる。そう思えるけれど、消費者の中には「色味が揃っていない」とか「木目がずれている」とか、そういうことを神経質に求めるユーザーもいる。そして、そういうユーザーの存在が現場を大量生産の新建材に走らせる。

ちきりん それはすごく大事な話ですね。日本は「お客様は神様です」意識がつよすぎて、ごく少数の過激なクレーマーに、メーカー側が必要以上に忖度する。そういう過剰反応があらゆるものを「つまらなくしている」と思います。

たとえばドアが木製のIKEAのキッチンって、とってもおしゃれ、かつ格安なのに、ドアにわずかな隙間があったりするわけですよ。それにたいして数ミリの誤差も許さない日本の消費者は「不良品だから取り替えろ」とか「補償しろ」なんて言い出す。

そんな経験を一度でもしたら、リノベ会社としてはIKEAのキッチンなんて使いたくなくなる。国内メーカーの大量生産系の商品にすればクレームは起こらないわけですから。

精密部品に求められるような品質の均一性を建材にまで求める消費者が業界を委縮させ、大量生産される製品ばかりでできた画一的な「新築マンション」「建て売り住宅」が氾濫する事態につながってるように思えます。

島原 かつて大量生産をしなければいけない時期もありました。年間170万戸近く、新築の家を建てていた頃です。

ちきりん 人口がどんどん増えてた高度経済成長の時代ですね。

島原 そのときには「右から左」で物を作らなければいけないので、製品にムラのある無垢の材料は使っていられないという建築側の事情もあったはずです。大量生産品の均質さや施工性の良さがとてもありがたかったんですね。ただ、それが過ぎた後にも関わらず、ちきりんさんがおっしゃったように、ものすごく神経質な日本の消費者の存在が家の中をとても画一的、均一的にしてきた。それが、偽物のフローリングに、天然木のような質感を持たせる技術開発をするような、冷静に考えるとおかしな現象を起こさせたのかもしれません。【続く】

(構成/長谷川賢人 写真/疋田千里)