ビジネスの現場では「ユーザに寄り添え」という表現をよく聞きます。
一見するとすばらしい主張のようではありますが、
具体的にどうすればユーザに寄り添うことになるのでしょうか。
わかりやすく作ったつもりなのに人気の出ないサービス、
盛り上がるよう企画したのに誰も来ないイベント、
性能が優れているのに売れない商品、
ビジュアルを工夫したのにウケの悪いプレゼン、
将来のためにと「勉強しなさい」と言ってもまったくやらない子どもたちetc.
相手のことを思って一生懸命伝えようとしているのに、
なぜわかってもらえないのだろうか…。
それは「人が動くしくみ」を知らないからに他なりません。
Twitterフォロワー数19万人以上のインフルエンサーで事業家の
けんすう氏が「今年読んだ本の中でNo.1になってしまった。すごい本。」と
絶賛し話題となった書籍『「ついやってしまう」体験のつくりかた』の著者が、
人の心を動かし「ついやってしまう」仕組みと手法について、わかりやすく解き明かしていきます。
(イラスト/玉樹真一郎、編集/和田史子)
子どもがゲームを好きなのは
学びの体験があるから
1977年生まれ。東京工業大学・北陸先端科学技術大学院大学卒。プログラマーとして任天堂に就職後、プランナーに転身。全世界で1億台を売り上げた「Wii」の企画担当として、最も初期のコンセプトワークから、ハードウェア・ソフトウェア・ネットワークサービスの企画・開発すべてに横断的に関わり「Wiiのエバンジェリスト(伝道師)」「Wiiのプレゼンを最も数多くした男」と呼ばれる。2010年任天堂を退社。同年、青森県八戸市にUターンして独立・起業、「わかる事務所」を設立。全国の企業や自治体などで、コンセプト立案、効果的なプレゼン手法、デザイン等をテーマとしたセミナー、講演、ワークショップ、プレゼン等を年60回以上おこなうほか、コンサルティング、ウェブサービスやアプリケーションの開発等を行いながら、人材育成・地域活性化にも取り組む。2011年5月より特定非営利活動法人プラットフォームあおもりフェロー。2014年4月より八戸学院大学・地域経営学部特任教授。2017年4月より三沢市まちづくりアドバイザー。著書に『「ついやってしまう」体験のつくりかた』『コンセプトのつくりかた』(ダイヤモンド社)がある
一連の体験を通して人々に情報を伝えることを、
「直感のデザイン」といいます。
直感のデザインは次の3つで構成されています。
仮 説 「○○するのかな?」と相手に仮説を立てさせる
試 行 「○○してみよう」と思わせ、実際に行動で確かめさせる
歓 喜 「○○という自分の予想が当たった!」とよろこばせる
ゲームであればゴールにたどりついてもらうために、デザイナーはあらゆる工夫を凝らして(第4回記事参照)「直感のデザイン」をつないでいきます。
敵を倒し、前に進んで、仮説→試行→歓喜を繰り返し、プレイヤーはひとつずつ難問をクリアして、ゴールにたどりつきます。
ゲームを通して積み上がっていく、プレイヤーの記憶。
それはゲームに限らず、個々のプレイヤーがみずから人生を歩む中で懸命に学んできたものです。
直感のデザインは、まるで大樹のように茂るプレイヤーの記憶の枝葉に接ぎ木でもするように、これまでのプレイヤーの人生と地続きに、新たな直感的な学びをつなぎこみます。
だからこそ、プレイヤーは謎を解いた瞬間、まるで自分のこれまでの人生を肯定されたかのような気持ちになるかもしれません。
俺って頭いいなぁ、俺スゴイ! なんて気持ちにさせたいのです、ゲームというものは。
ゲームの中はプレイヤーにとっての踏み台で埋め尽くされ、学習の機会に満たされています。だからこそ、ゲームは子どもに人気があるのでしょう。
なぜなら、子どもこそ、あらゆる世代の中でもっとも強く学びの体験を求めるからです。
新しいものごとへ興味を持ち、失敗も恐れず挑戦し、貪欲に学ぼうとする……そんな子どもたちがゲームを好いてくれるということは、ゲームが学びの体験をつくり出すことに成功している何よりの証拠だといってよいでしょう。
とくに世界一売れたゲームとしてギネスブックに掲載された伝説のゲーム「スーパーマリオブラザーズ」というゲームは、いっさい文字を使わずに、老若男女・世界中どこの国の人であっても直感的に学んでいく体験を生み出している素晴らしい事例です。(詳しくは拙書『「ついやってしまう」体験のつくりかた』をお読みください)