制度の谷間にはまった少年
役所と戦う市会議員の問題意識

 K君の家庭の所得は、生活保護基準の1.25倍だ。決して豊かとはいえない。そして一家の住むX市では、就学援助の対象となる所得を「生活保護基準の1.2倍まで」としているため、就学援助の対象にもならない。

 ユーフォニアムを入手するだけなら、中古を譲り受けることができるかもしれない。しかし、故障すればメンテナンスが必要だ。ステージやコンクールのたびに、新しい衣装が必要になる場合もある。遠隔地への移動が必要だったら、交通費も必要だ。ちなみに、市境の川の向こうのY市では、就学援助の対象を「生活保護基準の1.3倍まで」としている。

 市会議員・H氏は、「せめて就学援助があれば」というK君の親の嘆きを耳にした。そして「子どもに諦めやガマンを教え込む我が市で良いのか」と激怒し、X市役所の担当部署を訪れた。「あんまりじゃないですか? 何とかなりませんか?」というH氏に対する担当管理職・M氏の回答は、つれないものだった。

「そのお宅は、生活保護世帯よりは豊かな暮らしをしているんですよね。部活は義務ではないし、たとえば合唱と吹奏楽では費用が全く異なりますよね。公平性の観点から、いかがなものかと思います」

 諦めずに、「隣のY市では、所得が生活保護基準の1.3倍なら就学援助を利用できるのですが」と畳み掛けるH氏に、M氏は「わが市は、わが市ですから」と答えるのだった。

 H氏は、バスに乗ってY市の繁華街に出かけていき、居酒屋でビールをあおりながら、「ちくしょう、倍返しだ」とつぶやいた。H氏に、「倍返し」のチャンスはあるだろうか。

 もちろんH氏は、「倍返し」を実行できる。イニシャルが半沢直樹と同じだからではなく、市会議員として権限を与えられているからだ。しかし、議会で「あんまりじゃないですか? 何とかなりませんか?」と質問しても、担当管理職・M氏が「生活保護よりは豊か」「公平性」「わが市は、わが市」と、同じ内容の答弁を行うだけだろう。