だが、初めてきちんと言葉を交わしたとき、そんな印象は吹き飛んだ。お高くとまった女王様だなんてとんでもない。むしろ純真ではにかみ屋の女の子だったのだ。

 実際に組んでみると、なおみの内気なところが気になった。彼女が他人の視線を気にしない度胸を身につければ、試合でももっと堂々と自分を押し出せるのではないか。そう考えた著者は、ある「罰ゲーム」を提案した。それは、「練習で勝ったほうが負けたほうに罰ゲームを科すことができる」というものだ。

 あるとき、ミニゲームに勝った著者は、なおみに渋谷のスクランブル交差点でダンスをすることを命じた。この経験は、なおみに大切な教訓を教え込んでくれた。「たとえ他人にじろじろ見つめられようが、笑われようが、たいしたことはない」という教訓を。

◇誰かの真似はしない

 なおみはよく「セリーナ・ウィリアムズに似ている」と言われていたという。打ち方やゲーム運び、髪型などがその理由だった。

 そんななおみはセリーナに憧れていたものの、彼女と比較されることは嫌っていた。7年もセリーナと組んでいた著者をコーチに迎えてからも、セリーナがらみの質問は一切しなかった。それはなおみの、他人を真似ずに独自の道を切り拓くという決意の表れだった。

 他人からインスピレーションを受けることは悪くない。だが、そのまま真似ることに意味はない。自分に本当に役立つことを見極めたうえで、そこに自分ならではの彩りを添えることが重要なのだ。

◇リスクだけが本当に心を強くする

 著者はセリーナのヒッティング・パートナーを7年つとめたが、2015年に自ら別れを告げた。それは著者にとって大きなリスクを伴う決断だったが、結果として大坂なおみのヘッドコーチにつくことができ、世界ナンバーワンに挑戦することもできた。

 ときには自分を怖がらせるような冒険も必要だ。人は慣れ親しんだ環境に踏みとどまりがちだが、リスクをとって外の世界に飛び出さなければ、自分の真の価値はわからない。