マクロ経済スライド等による1階部分(基礎)の
実質的な給付カット率(ケース3)
年金財政の健全性は、年金財政の健康診断に相当する「財政検証」を少なくとも5年に1度実施することで確かめる。厚労省は8月下旬に2019年の財政検証を公表した。
今回は6ケース(ケース1~ケース6)を検証、高成長(実質成長率0.4~0.9%前提)の3ケースで、現在61.7%の所得代替率(現役男性の平均的手取り収入に対するモデル世帯での年金給付水準の割合)は50.8~51.9%に低下、低成長(実質成長率▲0.5~0.2%)の3ケースでは50%を下回る可能性を示した。
04年の年金改革では、年金給付を実質的にカットする「マクロ経済スライド」が導入されたが、次の財政検証までに所得代替率が50%を割ることが見込まれる場合は制度改正を義務付けている。
だが、マクロ経済スライドは1階部分(基礎)にもかかるため、低年金を一層深刻化させる。例えば、19年の財政検証のケース3では19年度の所得代替率61.7%(=基礎36.4%+比例25.3%)が47年度以降で50.8%(=基礎26.2%+比例24.6%)になる。これは、マクロ経済スライド等により、1階部分(基礎)の約28%カット、2階部分(比例)の約3%カットを意味する。
15年10月から「被用者年金一元化法」で厚生年金と共済年金は一元化されたが、国民年金と厚生年金の財政運営は分離されており、マクロ経済スライドの調整は2段階で行われる。まず、国民年金の財政均衡から基礎年金の調整を行い、それを前提に、厚生年金の財政均衡から報酬比例の調整を行う。この事実はあまり知られていないが、国民年金は財政基盤が脆弱なため、財政収支の均衡を図るための給付カット率が大きくなる。
この問題を改善する一つの方法としては、国民年金と厚生年金を財政的に統合する方法があるが、その効果を、「19(令和元)年財政検証関連資料」のケース3のバランスシートから概算すると、国民年金と厚生年金における平均的な給付カットは約8.3%になる。
今回の財政検証の結果を精査し、次の改革に向けた活発な議論が行われることを期待したい。
(法政大学経済学部教授 小黒一正)