現在の日本の公的年金には、「マクロ経済スライド制度」が導入されている。
これは、2004年改正において導入された制度で、加入者が減少し受給者が増加することの影響を、年金額を減額することによって調整するものだ。
では、これを完全に実行できれば、年金の問題はすべて解決できるのだろうか?
以下では、マクロ経済スライドは必要だが、それだけでは公的年金の問題は解決できないことを指摘する。
マクロ経済スライドに
課されている制約条件
2009年の財政検証においては、2012年から2038年までの26年間にマクロ経済スライドが実行されるものとされた。毎年の切り下げ率は、公的年金の被保険者の減少率(およそ0.6%)と平均余命の伸びを考慮した一定率(およそ0.3%)の合計である0.9%とされた。0.9%の切り下げを13年間行なうと、年金額は11%ほどカットされることになる。
では、この制度だけで年金改革ができるだろうか? つぎの2つの問題が指摘される。
第1の問題は、果たしてマクロ経済スライドを実行できるかどうかである。
実は、制度は導入されたものの、これまで一度も実施していない。物価が下落しているときには発動できないためだ。具体的にはつぎのとおりだ。
マクロ経済スライドには、つぎのような限定化がなされている。
「賃金や物価の上昇率がある程度以上の値になる場合にはそのまま適用するが、適用すると年金名目額が下がってしまう場合には、調整は年金額の伸びがゼロになるまでにとどめる」
したがって、賃金や物価が下落する場合、それに応じて年金額を下げるが、それ以上に年金額を下げることはないのである。
例えば、つぎのとおりだ。本来はマクロ経済スライドで年金額を0.9%減少させる必要があるとしよう。一方、賃金が上昇していれば新規裁定年金は年金計算式によって増加するし、物価が上昇していれば既裁定年金は物価スライド制により増加する。いま、賃金上昇率と物価上昇率は2.5%であるとしよう。
この場合、マクロ経済スライド制がなければ、年金は2.5%増加する。しかし、これを2.5-0.9=1.6%の増加にとどめようというのが、マクロ経済スライドである。