「セルフ・アウェアネス(自己認識)」は今、「リーダーが伸ばすべき最大の能力」と言われている。実際に、リーダーシップだけでなく就職や転職、キャリア構築においても、「セルフ・アウェアネス」という課題に向き合うことは、問題解決における必要不可欠なプロセスであると認識されている。そこで、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー EI〈Emotional Intelligence〉の感情的知性シリーズ最新刊『セルフ・アウェアネス 』発売を記念して、企業・組織における人材開発・組織開発研究の第一人者、立教大学経営学部の中原淳教授と、日本ラグビー協会でコーチングディレクターを務め、リーダーシップに関する著書や監訳書を多数出版されている中竹竜二氏に、「セルフ・アウェアネス」の重要性と実行のヒントを語ってもらった。(構成/田坂苑子 写真/斉藤美春)
「セルフ・アウェアネス」が「リーダーが伸ばすべき最大の能力」なわけ
立教大学 経営学部 教授(人材開発・組織開発)。立教大学経営学部ビジネスリーダーシッププログラム(BLP)主査、立教大学大学院 経営学研究科 リーダーシップ開発コース主査、立教大学経営学部リーダーシップ研究所 副所長などを兼任。博士(人間科学)。北海道旭川市生まれ。東京大学教育学部卒業、大阪大学大学院 人間科学研究科、メディア教育開発センター(現・放送大学)、米国・マサチューセッツ工科大学客員研究員、東京大学講師・准教授等をへて、2018年より現職。「大人の学びを科学する」をテーマに、企業・組織における人材開発・組織開発について研究している。専門は人的資源開発論・経営学習論。『職場学習論』『経営学習論』『研修開発入門』『駆け出しマネジャーの成長戦略』『アルバイトパート採用育成入門』ほか共編著多数。
中原 最近もっとも注目されているリーダーシップ理論に、「オーセンティック・リーダーシップ」と「シェアード・リーダーシップ」がありますが、両方のリーダーシップのコアとして共通しているものが「自分らしさ」なんですよね。
オーセンティック・リーダーシップは、「自分を見つめ、自分らしさを活かし、倫理を重視しつつ、誰にとっても透明性があって、フォロワーが自ら動いてしまうような状況をつくるリーダーシップ」。
かたやシェアード・リーダーシップは、「ある目標に向かってチームメンバーが対話や議論をしつつ、それぞれが自分の専門性を活かし、場面場面でリーダーを交換しながら前に進む」こと。チーム一人ひとりが、あるときはリーダーになり、あるときはフォロワーになる。その両方を経験するなかで、自分は何が得意なのか、何が足りないのか、どういう貢献ができるのか、つまり自分らしさがわかってくる。
どちらも、自分らしさ=自分を知る=セルフ・アウェアネス(自己認識)がカギとなるわけです。
中竹 私は日本ラグビー協会で“コーチをコーチする”コーチングディレクターを務めたり、株式会社チームボックスで企業に働くトップリーダー育成から、組織を変えていくためのプログラムを提供したりしていますが、そのなかでセルフ・アウェアネスの重要性を日々痛感しています。
ウィニングカルチャー(勝ち続ける文化)のあるスポーツチームには、必ずオーセンティック・リーダーシップとセルフ・アウェアネスが浸透していますし、企業のリーダーたち自身が変革を必要としている場合、まず「ご自身のことをちゃんとわかってください」というところから始めます。
また私自身、このEIシリーズの前回『オーセンティック・リーダーシップ』の解説 を書かせていただきましたが、その根底にもこの「セルフ・アウェアネス」がありました。ですので、先ほど中原先生の講演を拝聴し、リーダーシップとセルフ・アウェアネスの結びつきが改めて深まったように感じます。
中原 難しいのは、年齢に応じて、だんだん自分を知る機会が失われていくことです。職位が上がるとフィードバックを受ける機会が減っていき、いわゆる「裸の王様」になっていってしまう人が多い。だからこそ、いかにして「セルフ・アウェアネス」の機会をつくればよいのかが考えどころなんです。