メンタルをコントロールし、集中力・創造力が高まるとしてビジネスシーンで大きなブームとなっている「マインドフルネス」。しかし、ブームとなった半面、単なるツールとして安易に用いられ、その本質を見誤ってしまう危険もあるのではないか。
そこで「ハーバード・ビジネス・レビュー」の新シリーズ「EI Emotional Intelligence感情的知性」最新刊の『マインドフルネス』発売記念イベントで、ゲーム・人工知能(AI)開発の第一人者にして哲学塾を主宰する三宅陽一郎氏、曹洞宗僧侶としてグーグルやスターバックスなど米国の名だたる企業に坐禅を指導してきた藤田一照氏に、マインドフルネスの本質について語り合ってもらった。(前編はこちら
(構成/田坂苑子、写真/斉藤美春)

マインドフルネスを「筋トレ」から「オーガニック・ラーニング」へ

三宅 サティとマインドフルネスの違いというのはどういうところなんでしょう。

藤田 生まれてから2年くらいの赤ちゃんは、学校のように教えなくても日本語の基礎や運動の基礎を知らないうちにマスターしていますよね。教えていないのに勝手に学んでしまうことを「オーガニック・ラーニング」と私は呼んでいるんですが、サティを行うのはそういうイメージです。先生がいてプログラムがあってそれをこなしていく……というよりは、赤ちゃんのように皮膚から入ってくるような感覚。そうやって学んだほうが、いざというときにメッキが剥がれない。

 サティの修行は、いわば24時間マインドフルネスを、お互いにサポートし合うコミュニティのなかでやるようなものです。先輩や師の言動を見て自然に身につけていくオーガニック・ラーニングがそこにはあるんですね。

 かたや今のマインドフルネスは、たとえば8週間というコースのなかで「スキル」を学ぶ感じなので、アプローチが違うんですよね。両方のいいところを、互いにトランスファーできればいいと思っているんですけどね。

三宅 陽一郎(みやけ・よういちろう)
日本デジタルゲーム学会理事、「人工知能のための哲学塾」主催。ゲームAI開発者。京都大学で数学を専攻、大阪大学(物理学修士)、東京大学工学系研究科博士課程(単位取得満期退学)。2004年よりデジタルゲームにおける人工知能の開発・研究に従事。東京大学客員研究員、理化学研究所客員研究員、IGDA日本ゲームAI専門部会設立(チェア)、DiGRA JAPAN 理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。著書に『人工知能のための哲学塾』 『人工知能のための哲学塾 東洋哲学篇』(ビー・エヌ・エヌ新社)、『人工知能の作り方』(技術評論社)、『なぜ人工知能は人と会話ができるのか』(マイナビ出版)、『人工知能と人工知性』(iCardbook)。共著に『絵でわかる人工知能』(SBクリエイティブ)、『高校生のための ゲームで考える人工知能』(筑摩書房)などがある。

三宅 なるほど。学びというのは最初いろいろ試行錯誤するんですよね。自分の中から行為を組み立てていって、その行為のほとんどが失敗なわけですが、ある行為は世界と自分の中でループができあがる。

 例えば泳ぐのが下手な人は最初、水と自分がうまく調和していない。ところがあるときなぜかうまく調和し、遠くまで泳げるようになる。ある瞬間「発見」するわけですね。

 赤ちゃんもいろんなことをやってみて、その中からダメな行為と良い行為というのを自分で判断していく。サティというのも、おそらく自分自身で発見するものなんじゃないかなと思うんです。マインドフルネスのほうは、上から正解をまず教えてあげるようなところがあって、そこが違うのかなと感じます。

藤田 ええ。それに、マインドフルネスはよく「心の筋トレ」というふうにも言われたりしますね。体の筋トレで、何キロのダンベルを何回上げて……というトレーニングをするのに似ている。一方、サティのほうは、漁師の人が毎日仕事で海に網を投げては引き上げたりしているうちに自然についた筋肉、というイメージですね。

三宅 自然と一体のなかで身についたのがサティで、マインドフルネスはボディビルディング的、ということですね。

藤田 そう、だから筋肉の質が全然違うんですね。筋トレは筋肉痛になったほうがいいんだけど、漁師のほうは仕事ですから筋肉痛にならないように体を使うわけです。だから漁師のほうの筋肉にはインテリジェンスが含まれている。全身を使ってやるので。

 筋トレは、今日は上腕二頭筋、というように一部分に焦点をあててやる。そういう違いがあるわけです。

三宅 学ぶ側がマインドフルネスという簡易版と、サティという本物があることを知っていればいいんですよね。

藤田 ええ。私としてはそのふたつをうまく接合できればいいなと思っています。マインドフルネスが浸透してきたことで、色々な道具立てもそろってきたので、何かブレイクスルーが起こるかもしれないな、とそういう気がしています。