ところで、冒頭で紹介した「腹腔内温熱化学療法(HIPEC)」は、2016年に先進医療として認めてくれるよう国に申請したが、却下されてしまった。過去の治療成績に対するネガティブな意見があり、賛同が得られなかったからだが、「お湯の温度管理をしっかりやっていなかったのでは」と谷先生は悔しがっている。

 MR画像誘導下手術システムにも、やるせないエピソードがある。

「十数年前に東京の新聞社が取材に来てくれましたが、『山の中の大学がこんな凄いことやるなんて腰が抜けた』と言ってくれました。でも掲載はしてもらえませんでした。『人口100万の滋賀県のニュースより、1000万の東京のニュースの方が読んでもらえるから』だそうです」

 日本は狭い。どこの大学にいようが、谷先生が消化器外科医として常に患者のためを思い、手術法や医療機器を開発し、膨大な数の生命を救ってきた名医であることは間違いない。

「名医という言葉には抵抗があります。例えば、小説やドラマでは、早さと手際の良さが名医の条件のようになっていますが、少なくとも消化器外科の悪性腫瘍手術で一番大切なのは、なすべきことを丁寧に、正確に行うことです。なぜなら、手術の本当の結果が分るのは5年後、10年後で、手術直後ではありません。当然術後も患者さんが元気でいられ、さらに長く生きていただくことが、真の意味での神業であり、『失敗ではない手術』だからです」

◎谷 徹(たに・とおる)
滋賀医科大学 革新的医療機器・システム研究開発講座 特任教授
滋賀医科大学 バイオメディカル・イノベーションセンター 特任教授。1976年、金沢大学医学部卒業、翌71年より虎ノ門病院外科レジデント勤務。80年より滋賀医科大学 第一外科 医員。以降、助手、助教授を経て、2001年より同科、教授。02年、滋賀医科大学 外科学講座 主任教授。08年、滋賀医科大学医学部附属病院 副院長。10年、滋賀医科大学医学部 学長補佐。14年より、現職。