ベストセラー『教養としてのワイン』の著者であり、世界的なオークションハウス「クリスティーズ」のニューヨーク支社にてアジア人初のワインスペシャリストとして活躍した渡辺順子氏。彼女の新刊『高いワイン』(ダイヤモンド社)が先日刊行となった。今回は、数々の一流ワインをオールカラーで解説した本書から抜粋する形で、芸能人格付けチェックにも登場した高いワイン「ムートン・ロスチャイルド」について紹介します。

渡辺順子(わたなべ・じゅんこ)
プレミアムワイン代表取締役
1990年代に渡米。1本のプレミアムワインとの出合いをきっかけに、ワインの世界に足を踏み入れる。フランスへのワイン留学を経て、2001年から大手オークションハウス「クリスティーズ」のワイン部門に入社。NYのクリスティーズで、アジア人初のワインスペシャリストとして活躍。2009年に同社を退社。現在は帰国し、プレミアムワイン株式会社の代表として、欧米のワインオークション文化を日本に広める傍ら、アジア地域における富裕層や弁護士向けのワインセミナーも開催している。2016年には、ニューヨーク、香港を拠点とする老舗のワインオークションハウス Zachys(ザッキーズ)の日本代表に就任。日本国内でのワインサテライトオークション開催を手がけ、ワインオークションへの出品・入札および高級ワインに関するコンサルティングサービスを行う。著書に『世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン』『高いワイン』(共にダイヤモンド社)がある。

ピカソのラベルに込められた
積年の想いとは?

 毎年変わる芸術的なラベルで有名なのがムートン・ロスチャイルド(ロートシルト)です。

 ラベルを手がけたアーティストには、ピカソ、シャガール、フランシス・ベーコンなど、絵画オークションでも高値で落札される一流アーティストが名を連ねます。

 中でもジョン・ヒューストン作の可愛らしいムートン(羊)を描いた1982年産(下記写真のもの)は、ボルドーが良年だったことも相まってコレクターは必ず数本を手元に確保する人気ヴィンテージです。

ジョン・ヒューストンがラベルを描いた、1982年産のムートン・ロスチャイルド。『高いワイン』(ダイヤモンド社)より抜粋

 また、ピカソが描いた1973年産もムートンファンには見逃せません。この年はシャトーにとって「記念すべき年」だからです。

 ムートンが今の名前になったのは1853年のこと。金融で大儲けしていた英国のロスチャイルド家の一員、ナサニエル・ロスチャイルドがシャトーを購入し、「シャトー・ムートン・ロスチャイルド」に名を改め、新しい歴史が始まりました。

 そして、ムートン・ロスチャイルドに名を改めた2年後に行われた「メドック格付(フランスのメドック地区のシャトーを1~5級に格付した)」では、誰もがムートンの1級獲得を疑いませんでした。

 しかし、結果はまさかの「2級」。ナサニエルがイギリス人であったこと、また父親がナポレオンの敗戦を利用して巨万の富を得た人物であったことなどから、フランス人が占める審査員たちはナサニエルを快く思っていなかったのではないか、と様々な憶測が飛び交いました。

 発表の結果を受けたナサニエルは、「1級になれなかったが2級には甘んじない。ムートンはムートンである」と言い残し、1級獲得に奮起します。そして118年の歳月を経て、ムートンはついに1級へ昇格しました。これが記念すべき1973年なのです。

 皮肉にも1973年は天候に恵まれず、品質は最悪とも言える出来栄えでしたが、ムートンファンは勝利の美酒としてお祝い時には必ずこの1本を味わいます。ラベルには、「PREMIER JE SUIS , SECOND JE FUS MOUTONNE CHANGE(1級を獲得した。以前は2級であったがムートンは昔も今も変わらない)」と書かれています。

ピカソが描いた、1973年産のムートンのラベル。『高いワイン』(ダイヤモンド社)より抜粋