台風15号に続き、大きな被害を出した台風19号。特に台風15号では、行政トップによる現状把握が遅く、初動対応が鈍いとの批判が噴出した。一方、近隣諸国に目を転じれば、大地震発生からわずか6時間後に現地に首相が到着する中国など、素早い対応を見せる国が少なくない。(ジャーナリスト 姫田小夏)

行政長の現状把握が遅い
いら立つ被災地

千曲川の決壊で大きな被害が出た長野県台風15号・19号では、河川の決壊や暴風によって多くの人命と財産が失われた。それにしても気になるのは、国と自治体の対応の遅れだ Photo:Sipa USA/JIJI

 記録的な大雨をもたらした台風19号は、12都県で70人超もの犠牲者を出した(10月17日現在)。政府は先月の台風15号を教訓に「先手を講じる」と対策には万全を期したようだが、想像以上の猛威に、今なお国も自治体も被害状況の把握ができていない模様だ。自然災害のリスクが高まる日本で焦眉の課題となるのが、スピード感ある復旧と、そのための初動対応である。

 初動対応の遅れは、9月9日に千葉県を通過し、甚大な被害をもたらした台風15号が記憶に新しい。このとき、森田健作知事が南房総市の被災地を訪問したのは、被害発生から5日を経た14日のことだった。トップによる現状把握の遅れが、市民生活の復旧を遅らせるという事例となった。

「現状をしっかり把握して、陣頭指揮を執ってほしい」――そんな被災地や被災者の思いは、行政長にはなかなか届かない。2011年3月11日の東日本大震災で菅直人首相(当時)は、翌12日に空から福島第一原発を視察したものの、岩手県や福島県の避難所を訪問したのは40日も後の4月になってからのことだった。

 中国に目を転じれば、2008年5月12日午後2時28分に発生した四川大地震では、温家宝首相(当時)は同日午後8時には四川省都江堰市を訪れていた。現地紙によれば、「わずか5日間でほぼすべての被災地をまわった」という。

 中国では大規模な自然災害や事故などが起こると、中央政府のトップは瞬時にして被災地を訪問する。マスコミは翌日の紙面にトップの写真とコメントを掲載し、国を挙げて本気で取り組む姿勢を報道する。そこには当然、体制批判の矛先をかわすという“政治的パフォーマンス”が存在することは否めないが、トップ自らが現状を把握しているかどうかは、その後の指揮に大きくかかわる。

「中国は“強い政府”のもと、民間の力は弱められ、個人に与えられる自由も制限されますが、災害時においては、むしろこの“強い政府”が力を発揮します」と話すのは、千葉県に在住する中国華僑の王偉さん(仮名)だ。彼も台風15号で被害を受けたひとりだが、その復旧について「中国と日本は政治体制が違うことはわかっていますが、それにしても行政の力が全く見えませんでした」と落胆する。