親の入院でも休ませてもらえない
パワハラ常務に山田が反撃

 それから1週間ほどたったある朝、上村は常務に電話連絡をした。

 その日の夜中、高齢の母親がベッドから落ちて骨折し、入院することになってしまったのだ。病院に付き添わねばならず、「今日1日休ませてほしい」と伝えた。ところが常務は、「親のけがなんて関係ない。出勤しなさい!」とだけ言って、電話を切ってしまった。

 そのやり取りを聞いていた山田は常務に「上村さん、どうかしたんですか?」と尋ねると、常務は電話の内容を話した後、不機嫌にこう言い放った。

「親がけがして入院したくらいで仕事を休むなんて、社会人としての常識がない。あんな人は使い物にならない。全く困ったもんだ」

 山田は言いようのない怒りが湧いてきた。身体が震え、常務に向かって顔を真っ赤にして怒鳴った。

「よくもそんなこと言えますね!従業員はあなたの駒でも奴隷でもないんだ!」

 普段はおとなしい山田が大声を出すのを聞いた常務は驚いたが、すぐにカーッとなって怒鳴り返した。

「俺のやり方が気に入らないなら今すぐ辞めろ!」

 山田も負けじと言い返す。

「結構です。今までの常務のパワハラについては、しかるべきところに相談したいと思います」

 そう言うと、荷物をまとめて会社を辞めてしまった。そして翌日、上村も山田の後を追うように退職してしまった。

 山田が退職して1ヵ月ほどたった頃、L社宛てに弁護士事務所から内容証明が届いた。常務のパワハラについて、山田が慰謝料を求める内容だった。常務は兄である社長に内容証明を見せて、経緯を詳しく説明した。

 社長は、「そりゃまずいな。パワハラと言われても仕方ないぞ」と言い、慌てて顧問弁護士に相談した。話を聞いた顧問弁護士は常務に、「感情的に怒鳴ったり、業務命令の研修費用を従業員に払わせたり、欠勤扱いにするなど、あなたの方がおかしいですよ!」と一喝した。

 結局、弁護士の指示に従い、山田に対して事実関係を認めて謝罪するとともに、慰謝料を支払った。常務は最後まで納得していないようだったが、弁護士にきつく言われたのがよほど堪えたのか、その後は言動も少しはマシになったようだ。