プライバシー保護とのせめぎ合い
社会問題化する「監視社会」

 このことは、個人としてのプライバシーはどこまで侵害されているのか、という国民の不安を呼び、社会問題化している。一方、顔認証システムと社会信用システムの構築は、まさに中国人の行動モラルを再構築している。

 中国社会では、自らの都合だけを優先して社会的モラルを無視したり、公共秩序を乱したりする行為が、信じられないほど多発している。個人のモラルの向上に期待を寄せても、なかなかすぐには効果が見られない。最近、こうした無責任な行動をとった人に対して、飛行機や列車への乗車制限を行うといった処罰を設けるようにした。効果は抜群のようだ。

 環球時報英語サイトの報道によると、今年4月末までに、飛行機のチケット購入についてはのべ1114.1万人、中国版新幹線である高速鉄道のチケット購入についてはのべ425万人が制限を受けた、という。信号無視、車内喫煙、借金滞納などの行為は、おそらくそう時間がかからないうちに食い止めることができるだろう。

 中国では、満16歳の国民は全員必ず政府が発行した写真付きの身分証を持っている。したがって、政府はびっくりするほどの規模を持つビッグデータを管理していることになる。第13次5ヵ年計画(2016年~2020年)によると、2020年までに100の新型スマート都市において、顔認証システムの構築が推し進められている。

 社会全体と国民個人に対する政府のガバナンスも、無限に強化されていく。顔認証システムの強化により、陳情、権益の保護、実権を握っている人に対する批判などの行為も監視され、抑制されてしまいかねない問題にもつながっていく。それらは、やがて大きな社会問題へと発展していく恐れがある。バランスをとるための解決案は、まだ見つかっていない。

 成田空港や羽田空港で出入国手続きをするとき、最近、顔認証システムを使って手続きをする人が増えてきた。こうした光景を見ながら、一歩先を行く中国の顔認証システムの効果と課題を照らし合わせ、日中間のこうした分野での交流は可能だろうか、日本から刺激的な解決案を提示できるだろうかと、私は思わず考え込んだりしている。

(作家・ジャーナリスト 莫 邦富)