「政治家は5年先のビジョンは本気で描けない。せいぜい自分の任期の半分。残り半分は次の選挙で頭はいっぱいだ。官僚にも退官後のことしか頭にない者も多いがね」
「じゃ、なぜ総理は――」
「能田総理は自分の任期のうちに首都移転を完成させると、強く思っている。彼の個人的な思い上がった野心だろうが、そんなことはどうでもいい。ゴールは我々と一緒だ。私は全面的に彼を助けると決心した。殿塚先生も同じ思いだ。道州制と首都移転は一体だ。だから、ご一緒願った」
「我々が青写真を引いておくと言うことですか。総理に提示する前に」
「それでは遅い。走り始めていなければならない。発注先を決め、十分な話し合いをしておくと言うことだ」
「つまり、あとに引けない状況を作り上げておくということですか」
森嶋はそんなことが出来るのか、と思いながら言った。
「現在の日本を見てみろ。それが日本の利益につながると信じている。いや、それしか日本が生き残る道はない」
村津はいつになく、迷いのない口調で言い切った。
「私はグループの仲間にも首都模型は見せるべきだと思います。それは彼らの意識を変えるのにも役立ちます」
「首都移転計画、こんな重要事項が国民の知らないところで進んでいる。きみが突然そんなことを聞かされればどう思うかね」
「村津さんはマスコミに漏れると思っているんですか。グループの者に見せれば」
森嶋の言葉に村津は答えない。
「すでに私たちのグループは官報にも載りました。公になっているのです。マスコミも知っています」
「しかし誰が真剣にとらえている。また税金の無駄遣いを始めたと思っているのが関の山だ」
村津は冷ややかな口調で言った。たしかにそうかもしれない。マスコミが騒がないのは、どうせすぐ消え去る話だと思っているのと、最近の日本情勢があまりに急変して、些細なことは取り上げる余裕がないからだ。
「さあ、殿塚先生に負けてはいられない」
村津が森嶋の肩を叩いて勢いよく立ち上がった。