森嶋がマンションに帰ったのは、午後10時を回ってからだった。

 マンションの部屋の前に黒い影がうずくまっている。近づくとかすかにいびきが聞こえてくる。

 森嶋は肩に手をかけて揺すった。ロバートが薄く眼を開けて森嶋を見上げた。

「来る時には電話しろと言っただろ」

「したがつながらなかった」

 村津に付き添って、車に乗り込むとき携帯電話を切ったのを忘れていた。優美子が頻繁にかけてくると思ったのだ。

「どうやって入った」

「いつも通りさ。適当な部屋番号を押して開けてもらった」

「俺の名前を出したのか」

「当然だろ。日本のエリート官僚の肩書はマスターキーだ」

 セキュリティのあるマンションに入る時のロバートのやり方だった。誠実そうな笑顔で部屋の場所は覚えているが番号を忘れたと言うと、たいてい開けてくれた。

 目の前のロバートは2日前のローバートとは別人のようだった。元の陽気で有能なアメリカ人に戻っている。

 ロバートがくしゃみをして鼻をすすった。冬の夜にコート1枚で居眠りをしていたのだ。

 森嶋が急いでドアを開けると、ロバートはその間をすり抜けるようにして部屋に入った。