そしてそのままキッチンに行き、冷蔵庫からビールを出している。

「ビクター・ダラスに会ったのか」

「感謝してる。裏口を付けてくれていて。彼から聞いたのか」

「いや、他のルートからだ。彼に何と言った」

 新首都の模型を見せたことは知らないのだ。

「日本の現実をありのままに話した」

「あいかわらずウソが下手だな。彼らがそんなことで自分たちの評価を変えるはずはない」

「変えたんじゃなくて、発表を延期しただけだ」

 森嶋は理沙の言葉を思い浮かべていた。

 「しかしインターナショナル・リンクが日本の降格を見送ったのには驚いたね。世界中が驚いていた。何があったんだってね。彼らを考え直させるに足る事実は何なのだ。一時、円安、株安が止まっただろ。お前はよほどダラスに気に入られたのか」

「日本を、いや日本人を理解してくれたということかな」

「また理解不能なことを言う。お前の最大の欠点であり、利点でもあるんだろうな」

「昨日から世界に流れている地震と火山噴火の情報の出所をアメリカは知ってるのか」

「アノニマス、中国、北朝鮮、日本に恨みを持っている者、ひと儲け企んでいるグループ、ひょっとするとユニバーサル・ファンドの連中かも知れない。あれだけ大規模となると個人じゃ難しい」

「中国が絡んでいるのか」

「日本政府はどう考えている」

「俺はいち公務員だと言ってるだろ。マスコミのほうが情報量は多い。しかし、日本政府も動いてはいるんだろ。今のところ、なんとか平静を保っている」

 ロバートは缶ビールをテーブルに置いて、森嶋を見つめた。表情が変わっている。