岡田武史J3昇格を内定させたFC今治の岡田武史オーナー Photo by Naoto Fujie

日本代表監督としてただ一人、ワールドカップで2度の指揮を執った岡田武史氏がJリーグに帰ってくる。2014年11月からオーナーを務めているFC今治が、J1から数えて4部リーグにあたる今シーズンのJFLで4位以内を確定。運営面に続いて成績面の条件も満たしたことで、来シーズンからのJ3昇格を内定させた。横浜F・マリノスの監督を辞任した2006年8月以来、距離が空いていたJリーグの舞台へ。数々の金字塔を打ち立てた指導者へと戻る退路を断った「岡ちゃん」が、リスクを覚悟の上で壮大な夢を追いかけ続ける経営者として舞い戻ってくる。(ノンフィクションライター 藤江直人)

「想定より1年遅れ」で昇格内定
“岡ちゃん”が13年ぶりにJリーグに復帰

 現役時代はピッチの上でも外さなかった伝説も残る眼鏡は、63歳となった今もトレードマークとなっている。その奥で時折放たれる鋭い眼光に、年齢を重ねる度に幾十にもまとってきたダンディーなオーラを融合させながら、「岡ちゃん」の愛称で知られる男がJリーグに帰ってくる。

 日本代表監督としてただ一人、ワールドカップの舞台で2度指揮を執った岡田武史とJリーグの接点をたどっていくと、横浜F・マリノスの監督を辞任した2006年8月に行き着く。実に13年あまりに及んだ空白期間を乗り越える瞬間は、歓喜と涙を交錯させながら2019年11月10日に訪れた。

 J1から数えて4部にあたるJFLの第27節。愛媛県今治市にある「ありがとうサービス.夢スタジアム」を本拠地とするFC今治が、ホームのファンやサポーターの目の前でFCマルヤス岡崎に勝利。同時間帯で行われる試合で5位のホンダロックSC、6位のヴィアティン三重がともに引き分け以下ならば今治の4位以内が確定し、J3へ参入する上での成績面の条件を満たす。

 果たして、今治は前回対戦時に敗れている岡崎を1-0で退ける。歓喜の輪が広がっていく中でホンダロック、そして三重がともに引き分けたという吉報がファンやサポーターの涙をも誘う。3度目の挑戦でようやくこじ開けたJリーグへと通じる扉。今治を運営する「株式会社今治.夢スポーツ」の代表取締役会長を務める岡田は、意外にも聞こえる第一声で昇格内定を振り返った。

「想定より1年遅れている。ホームで決めて、今治の方やサポーターの方に喜んでもらえたのは一番よかった。ホッとしたというのが一番ですけど、それでも今日は単なる通過点であって終着点ではない。物足りないところをクラブ全体の努力で補い、バックオフィスとしての力ももっとつけていかないと、Jリーグでは厳しいと考えています」