「不動産さえあれば悠々自適」
上海富裕層の景況感は

 9月、10月は1年のうち最も住宅購入の需要が高い時期だといわれているが、今秋、上海の住宅業界は暇を持て余していた。2016年以来、中古住宅市場は弱含みで、仲介会社の営業マンは「不動産オーナーは弱気になってきたから、今が交渉のしどき」だと耳打ちする。その一方で、物件オーナーが「中古市場に出しても希望値で売れないから賃貸に回す」と明かすように、売却を断念する動きも出始めている。

 いずれにしても、上海は富裕層が集まる街だ。徐匯区と黄浦区を結ぶ肇嘉浜路沿いには、1戸当たり1億円をゆうに超える高層マンションが林立するが、上海には物件の数だけ億万長者が存在しているともいえる。「住宅さえ所有していれば生活に困らない。上海で不景気を感じにくいのはそのせいです」と、英国系企業に勤務する徐瑞さん(仮名)は話す。

 好不況に左右されず、リッチな生活ぶりを見せる富裕層は枚挙にいとまがない。中堅アパレルブランドで管理職を務める蔡健さん(仮名)はこう話している。

「会社のレセプションで働く若い女性は6000元(約9.3万円)程度の月給しかもらっていないが、親が家やクルマを買い与えるので、彼女は何一つ不自由していません」

 古北新区に在住して5年目になる日本人女性の天野麻衣子さん(仮名)は、「上海の若い世代は食事に行っても迷うことなく“刺身の船盛り”を注文します。私の知る限りでは、貯金をしている上海人はほとんどいません」と、富二代(富裕層の子女たち)の旺盛な消費ぶりに驚きを隠さない。

 上海の中心部の優良物件は、中国のGDP成長率が右肩下がりになる前の2000年代前半に、すでに“売り切れ御免”の札が下がった。文字通り、先富論を体現するのが一級都市の上海であり、人口の数パーセントといわれる富裕層がここに集中し、不動産を手中に収めた。ちなみに、前出の温州の創業者は工場経営から手を引いたものの、現在は上海で取得した複数の事業用不動産を運用しながら、豪華マンションで悠々自適に暮らしている。

 そうした上海から中国全体を見通すことは困難だが、この上海で“高嶺の花”といわれた一流マンションからも、ポツポツと競売物件が出始めている。

 2019年はGDP成長率の「6%維持」に関心が向けられたが、2020年は「5%維持」が話題の中心になるのか。経済成長率がさらに下振れすれば、不良債権の山がさらに鳴動するだろう。不動産にあまりに深く依存した中国経済の先行きが心配だ。