ダイヤモンド社より刊行された『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書きためた「働くことの本質」』がベストセラーとなっている株式会社 刀CEO・森岡毅氏。
彼は倒産確実と言われていたUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)を、わずか数年で世界第4位のテーマパークにまで導いた稀代のマーケターとして知られる。2017年に独立して刀を立ち上げ、沖縄の新テーマパーク構想に取り組んだり、昨対を割り込んで苦しんでいた丸亀製麺(トリドールホールディングス)の業績をわずか半年でV字に復活させたり、さまざまな業種で目覚ましい業績を重ねている。
森岡氏が率いる「刀」は、2001年に廃止が決定された年金受給者のための保養施設「グリーンピア」の1つ、「グリーンピア三木」の再生にも取り組んでいる。その施設は「ネスタリゾート神戸」として生まれ変わり、現在は大盛況の状態であるという。森岡毅は、どのようにして破綻したリゾートを甦らせたのか? その秘策を聞いた。
(取材/ダイヤモンド社・亀井史夫)

2019年夏にネスタリゾート神戸で期間限定で実施された熱気球「バルーン・フライト」

「ないものはない」→だから人が来る
逆転の発想から生まれた新コンセプト

 日本列島改造論を掲げる田中角栄内閣の計画の元で、厚生省が旗を振り、保険者・年金受給者のための保養施設として全国13か所に設置された「グリーンピア」は、2001年の特殊法人等整理合理化計画において廃止が決定された。経営ノウハウのない役人が、計画性なく莫大な資金を投入した結果、すべての施設の経営が行き詰っていた。少子高齢化が進んだ日本の公的年金積立金の不安定化に、更なる打撃を与えた「負の遺産」と言われる。

 兵庫県の「グリーンピア三木」もその1つである。2005年に兵庫県へ所有権が移り、大阪市内の会社に賃貸されたうえで運営されていたが、新たな経営主体の下で2016年に「ネスタリゾート神戸」として再出発した。
しかし一度破綻した施設の復活は簡単ではなく、リニューアル後も苦戦が続いていた。そこでネスタリゾート神戸が助けを求めたのが、USJをV字回復させた森岡毅率いるマーケティング精鋭集団「刀」である。

「グリーンピアが破綻したのは、覚悟のある経営母体とマーケティングのノウハウがなかったからです。しかしネスタリゾート神戸になってからは、本気で立て直そうとする強い覚悟のある経営者がいらっしゃったので、我々のマーケティングノウハウを結集すれば、難易度は非常に高いが再生できる案件だと思いました。三木市というのは山林に囲まれた人口約8万人の小さな地方都市です。総工費300~400億円の巨大施設が失われることは、地域に与える負のインパクトがあまりに大きい。逆に持続可能な事業に転換できれば、地域だけでなく、関西全体にとっても良い影響がある。我々ができるのであれば、見過ごしてはいけない案件だと思いました」(森岡毅・株式会社 刀CEO)

 しかし、残されているのは、甲子園87個分の広大な敷地と、必要以上に豪華な宿泊施設、テニスコート、体育館などである。企業の研修などで使われることはあっても、週末に家族連れで訪れるような「理由」がない。この施設は、森岡氏の目にはどう映ったのか?
「『ないものはない』という現実です。しかし物事には二面性がある。この事実を反対から見れば、それは武器にもなり得ると思いました。関西にはUSJという巨大なテーマパークがありますが、USJとは真逆のコンセプトの施設ができると思ったのです」(森岡氏)

 2018年の春に相談を受けた森岡氏は、すぐに現地を視察し、新しいコンセプトを考え、様々なデータと数式を駆使して分析を重ねた。そして2018年夏から新キャンペーンをスタート、2018年秋にネスタリゾート神戸を新ブランドの下で本格リニューアルオープンした。
「新しいコンセプトは『大自然の冒険テーマパーク』です。自然に囲まれた広大な敷地だからこそできる貴重な体験を魅力として打ち出しました」(森岡氏)

オフロードを本格バギーで走り回る「ワイルド・バギー」

 大地の起伏をそのまま活かしてオフロードコースをつくり、本格バギーで走り回る「ワイルド・バギー」をまずオープンした。大人であってもオフロードを自分で運転して爆走するワクワク体験をまだ経験したことのない人がほとんどであろう。デジタルの世界では感じられない生の迫力と「双方向性」が圧倒的だ。特に初めて乗り物を運転する子どもにとっては記憶に残る最高の体験になる。
 また、畑で新鮮な野菜を自分で収穫し、生きた魚を自分で捕まえて、素材のうまみが際立つ特別レシピで食べる「ワイルド・ハーベスト」は、子どもも大人も大喜びだ。
 緑に囲まれた池の上にはカヌーを浮かべた。オールを漕いでカヌーで浮島を回る「ワイルド・カヌー」は、冒険者になったような気分に浸れる。子どもはもちろん、大人でもカヌーを操るのが初めてという人は多いはずだ。
 さらにこの夏には、期間限定で大自然を見下ろす熱気球「バルーン・フライト」も上げた。眼下に広がる大自然が朝日に光輝くさまは、本能を揺さぶる感動の瞬間だ。

「この新しいコンセプトは大当たりしました。狙い通りグリーンピア時代には集客できなかった日帰りの家族連れが週末に大挙して訪れ、刀との協業からわずか1年足らずで、集客は207%に、売り上げに至っては260%という驚異的な業績回復となっています。グリーンピア時代からの悲願であった黒字化も現実味を帯びてくるところまできました」(森岡氏)

冒険者のように池の上を漕いで回る「ワイルド・カヌー」

 特筆すべきは、新しいアトラクションがどれもそれほど設備投資にお金をかけていないこと。コンクリートで新しい施設を造ったわけではない。もともとあった山野にバギーを走らせ、もともとあった池にカヌーを浮かべただけだ。必ずしもお金をかけなくても、お客様が大興奮し、大喜びする体験は作ることができる。このことは、伸び悩んでいる全国の遊園地やレジャー施設の事業者にとって良い参考になるはずだ。

「リニューアルのためにかけられるお金は本当に限られたものでした。これは私がUSJの再建に当たった初期の構造と似ていましたが、USJよりもはるかに使えるお金は少なかった。でもアイデアはお金じゃないんです。お金は選択肢を増やすけれど、アイデアそのものではない。逆にお金がなくても、与えられた条件の中でも消費者視点で頭をひねれば、いくらでもお客様を惹きつけるプランは出てくるのです」(森岡氏)