「近いうちに村津さんの口から話すはずだ。あの人は僕たちを信頼している。だから、当分は黙って言われた仕事をしていればいいんだ」

 森嶋は昨夜聞いたのと逆のことを言った。村津はグループの者たちに今すべてを話して、外部に漏れることを恐れているのだ。

 しかし、すでに公表しなければならない時期が来ている。日本はその状況に陥っていると森嶋は思っている。優美子の言葉は正しい。

「財務省は現時点の日本経済の動きをどう捉えている」

 森嶋は話題をそらすために聞いた。

〈どうって、最悪だと思っている〉

「だったら、どんな手を打ってる。このままだとアリ地獄に引き込まれるだけだ。日本の沈没だ」

 優美子の言葉は返ってこない。いや、返せないのだろう。

「日本経済を護ることが国民を護ることだ。財務省はそのためにある」

 森嶋の口からいつになく強い言葉が出た。昨日のATMに並ぶ人の列を思い出したのだ。

〈私は現在は国交省、いえ村津さんの所に来てる。出向という形だけど、ひょっとすると帰れないかもしれない。財務省にはすでに私の席はない。他のみんなも同じはず。でも、今の日本の状態を見ていると、このままここに骨を埋めてもいいって気にもなっている。これは全員の思いだと思う。でも、村津さんは真実を伝えてくれない。私たちを信用してないんでしょ。あなただって同じよ〉

「そんなことはない。俺たちは仲間だ。村津さんだって――」

 森嶋は言い切ったが、その言葉はむなしく消えていく。