〈誰もそうは思ってない。私たちは蚊帳の外なの〉

 今度は森嶋が黙る番だった。

〈インターナショナル・リンクはなぜ会見を中止したのかしら。財務省の情報だと銀行の格付けを下げるってことだったはず〉

 優美子が話題を変えるように聞いてくる。やはり、気まずくなるのは避けたいのだ。

「中止じゃない。延期しただけだ。これは確かな情報だ」

〈じゃ、どのくらい時間をくれたの〉

「長い時間じゃない。おそらく、数日だろう」

 優美子からは情報の出所の質問はなかった。ロバートからだと思っているのだ。

〈私はもう出かける。遅刻はしたくないもの。みんなも時間通りに来てる。あなたも来るんでしょ。それとも他に呼び出されてるの〉

「時間厳守が日本の公務員の美徳だ」

 森嶋は優美子の皮肉交じりの言葉に答えた。

 時計を見るとそんなに時間はない。しかし、ひと言話す時間はあるだろう。

 森嶋は携帯電話を切って、着替えるとマンションを出た。