「エビデンスがないからダメ」では
あまりに無責任ではないか

 ご存じの方も多いと思うが近年、日本人の2人に1人はなる「がん」の治療に、大きな変化の波が押し寄せている。海外で実用化されている遺伝子解析によるがん診断や、「オプジーボ」をはじめとする「免疫療法」などが日本でも注目を集め、これまでのように手術や抗がん剤、放射線治療などのいわゆる「標準治療」が効かないと、あとは怪しげな民間療法にすがるしかないという現実が、少しずつだが変わりつつあるのだ。

 が、その一方で、一部の医師たちはこれらの新しい治療を「エビデンスがない」「副作用がある」などと攻撃をしているという現実もある。実際、筆者が取材したあるがん患者は、免疫療法を希望したら医師から鼻で笑われて、「そういう怪しげな治療を望むのなら、この病院には来ないでほしい」と言われた。

 日本の医学界で太鼓判を押されている「標準治療」は、エビデンスがあるので安心・安全でオススメだが、がんゲノム医療、免疫療法などはエビデンスもないので信用に値しない「インチキ医療」だと言わんばかりなのだ。

 もちろん、医療現場において、臨床試験に裏打ちされたエビデンスが重要であることは言うまでもない。しかし、がんの場合、抗がん剤などの「標準治療」で効果が出ない患者が少なくない。つまり、エビデンスのある治療で結果が出ない人が山ほどいるのだ。そうなれば当然、海外の論文で紹介されていたり、一部の国で実用化されていたりする最新の治療方法を希望する人も出てくるが、一部の医師は「エビデンスがない」の一言で、その道を断ってしまっている。

 という話を聞くと、「患者本人の気持ちはわかるが、医師の立場としてエビデンスのない治療など薦められるわけがないだろ」と思う方も多いかもしれないが、人の命を救うためにあらゆる手を尽くすべきで、「エビデンスがないのであきらめてください」で終わらせてはいけない、と主張する医師も存在している。

 東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センター長、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長、シカゴ大学医学部教授を経て、現在は東京・有明にある「がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター」の所長を務めている中村祐輔氏だ。