この患者さんも、もう自分ではどうしようもないほど便秘がひどくなり、私のところを受診されました」

 自分ではどうしようもないほどのひどい便秘とは、どのような症状なのだろう。

「腸は糞便でパンパンに膨れているうえに、肛門の感覚がなくなって、便意を感じられなくなっていました。

 肛門の感覚がなくなってしまった一番の原因は摘便(てきべん)です。指を肛門に入れて便をかき出す行為です。私はこれまで、便秘の苦しさに耐え切れず、誰に教わったわけでもなく、人知れず摘便が習慣になってしまった女性を山のように診てきました。

 肛門は極めて鋭敏な臓器で、そこを通るのが気体なのか、固体なのか、液体なのかを正確に感じ分けることができます。ところが摘便がクセになると、繊細な肛門が傷つけられ、感覚が鈍くなる。実際には、固体(便)が下りてきているのに、気体(おなら)だと勘違いして腹圧をかけてしまうという悲劇が起きてしまうこともあります。

 お尻の穴のしまりが悪くなって、便を我慢できなくなり、便失禁する人もいます」

 なるほど、これは女性にとってある意味、重篤な病気、異常に怖い事態だ。

「その患者さんとは次のようなやりとりをしました。

中島 あなた、肛門のすぐ手前まで便が来たら、トイレに行きたくなりますか。
患者 なりません。
中島 オナラが出そうな時と、便が出そうな時の区別はつきますか。
患者 最近つかなくなってしまって、それで困っているんです。
中島 お気の毒ですが、そうなってしまったら、もう元には戻せません。糞便でパンパンに膨らんだ大腸は、極限まで膨らませた風船のようなものです。形が変わらない程度に、少しだけ膨らませた風船なら、空気が抜ければ元に戻るけれど、パンパンに膨らませて伸び切った風船は、空気が抜けても元には戻らないでしょ。失われてしまった大切な機能はもはや、取り戻せません。
患者 そんな…、便秘なんかで病院に行っても相手にされないと思って、なんとか自分で治そうとしてきました。ヨーグルトとかサプリとか、市販の便秘薬とか、便秘体操とか、ありとあらゆることをやってきたんですけど。
中島 私の患者さんのほとんどは、自己流で頑張って、悪化させてしまった方ばかりです。もっと早く、来院していただきたかったです」