社会は「個人」から変わっていく

キム 日本では、個人よりも組織や社会に目が向いてしまう。そういう印象があります。どこかへの所属欲求が大きい、と言い換えてもいいかもしれない。今、国や社会を変えないといけない、という空気があるわけですが、まさに制度や政策を中心に研究してきた僕が思うことは、制度や政策を変えることが必要条件になることはありえても、それだけで社会や世の中は変わらない、ということです。

 社会の変革は、個を起点に考えないといけない。それが、僕が持った結論でした。個が個としての自覚を持つこと。一人ひとりが、部品や歯車ではなく、主役であると認識した社会というのは、ものすごく強いんです。社会を変えることを考えたとき、時間がかかるように思えて、実は最も確実で、最も早い変革プロセスは、個人個人が変わることです。

 今、日本社会に一番欠けているのは、自分に対する信頼のような気がします。とりわけ若い人は、自分の可能性に、あまりにも信頼が足りない。あたかも今の社会が永遠に続いて、そこに敷かれたレーンに乗れば安泰な生活が一生待っていて、乗れなかったり、乗り遅れたりしたら、もう人生は終わってしまうかのような幻想を持っている。でも、実際にはそんなことはまったくないわけです。

 それは、社会で成功した人であればあるほど、よくわかっておられますよね。逆に、あまり成功していない人ほど、それがあたかも真実であるかのように社会を煽ったりする。何も考えない人、不安の中で生きている人は、それに煽られてしまう。若い人は、未来をシミュレーションできるような経験もないので、そこで押しつぶされてしまう。

 出井さんもそうですが、そういう人たちを引っ張りあげて、もっと自分を信頼していいんだよ、それでいいんだよ、とメッセージする役割を自覚されてきたと思うんです。自分が信じていることをやることが、実は正しいことだ、と。僕も、その背中をちょっとだけ押す役割を、『媚びない人生』で果たせたら、と思っています。

出井 僕はソニーの社長時代、日本について何度もインタビューで尋ねられて、「日本のことより、ソニーのことが今は大事だ」と答えて大変な批判を浴びた人間なんです(笑)。でも、基本的にそれは今も正しいと思っている。ソニーの社長として、ソニーなしに日本は語れないんですよ。もっといえば、一番大事なのは、自分の命でしょう。自分の命なしに、ソニーも日本も語れない。それは冷静に考えればわかるはずなんです。

 もちろん国も所属する企業も個人も大事ですよ。でも、重要度の優先順位はやっぱり個人からだと思う。ところが、それが、どうにも日本はできていないでしょう。自分が弱ければ弱いほど、視点が国とか大きな所に行ってしまうんです。重要なのは個人の持っている倫理観と、自分の心に対する誠実さだと思います。本当は、真っ先に大事にしないといけないのは、自分自身なんです。

キム もっと個人は自分を信じていい、ということですよね。本当にそのことを、若い人たちには伝えたいです。


 

 

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TOKYO FM『中西哲生のクロノス』公開録音に読者特別ご招待!

【公開録音 概要】
日 時:2012年8月16日(木)19時開演(18時開場)
20時30分終了予定
会 場:東京・原宿 ダイヤモンド社9階セミナールーム (東京都渋谷区神宮前6-12-17)
料 金:入場無料(事前登録制)
定 員:40名(先着順)
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【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】

定価:1,365円(税込)
四六判・並製・256頁 ISBN978-4-478-01769-2

◆ジョン・キム『媚びない人生
「自分に誇りを持ち、自分を信じ、自分らしく、媚びない人生を生きていって欲しい。そのために必要なのは、まず何よりも内面的な強さなのだ」

将来に対する漠然とした不安を感じる者たちに対して、今この瞬間から内面的な革命を起こし、人生を支える真の自由を手に入れるための考え方や行動指針を提示したのが本書『媚びない人生』です。韓国から日本へ国費留学し、アジア、アメリカ、ヨーロッパ等、3大陸5ヵ国を渡り歩き、使う言葉も専門性も変えていった著者。その経験からくる独自の哲学や生き方論が心を揺さぶられます。

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