世界28の言語で翻訳された全仏ベストセラーシリーズ最新刊の日本語版『猫は気まぐれに幸せをくれる』が刊行されました。
寝たいだけ寝て、暇さえあれば物思いにふけり、嫌いな奴が来たら姿をくらませる。飼い主をたっぷり困らせたかと思うと、欲しいものがある時だけ従順なフリをして、実は猫のほうが飼い主を選んでいる……15年間、どんな時でもそばにいてくれた愛猫に教わった、もっと楽しく快適に生きる秘訣を『猫は気まぐれに幸せをくれる』から一部抜粋・再編集してお送りします。

Photo: Adobe Stock

猫のジギーより飼い主のステファンへ。
僕には「あいつ」が我慢できない!

ステファン・ガルニエ(Stéphane Garnier)
1974年、フランス、リヨン市生まれ。レコーディング・エンジニアとして長く働いた後、現在は作家として小説、エッセー、ドキュメンタリーなどを手掛けている。愛猫ジギーとの暮らしを満喫し、その行動から日々得られた気づきをまとめた『猫はためらわずにノンと言う』(ダイヤモンド社)がフランスで20万部を超えるベストセラーとなり、世界28の言語に翻訳された。腕に抱いているのが愛猫のジギー。

 今日は、猫の僕(ジギー)から飼い主のステファンへ。

 ステファンは友達を家に招いてよく一杯やる。
 そのほとんどは見知った顔で、カウンターに陣取ってよもやま話に花を咲かせるのが常だ。
 通りすがりに皆が僕の頭をひとなでしてゆく。

 こいつはいい奴だと思ったら、腹をモフられても許そう。
 しかし、僕がソファーのひじ掛けから部屋の入り口を見張っているのは、「あの女」が来るのではないかと気になるからだ。
 もちろん、スリスリしに行くためではなく、さっと逃げるため。

 彼女がヒールの音も高らかに入ってきたら、「ヒステリー」とか「あいつ」とか呼んでクローゼットにまっしぐらだ。
 ダメだ! ダメだ!
 どうしても我慢できない!

 あいつはドアから入ったとたん、甲高い声で騒ぐ。
 しかも僕を見つけるや、いちだんと声を張り上げる。
 そして、僕を汚れた洗濯物のかたまりか何かのようにもち上げて、めちゃくちゃに振り回す。

 なれなれしいのもいい加減にしてくれ!

 一度目は飼い主への礼儀だと思ってこらえたが、もう少しでまぶたに爪の一撃を食らわせるところだった。

 結局僕はこの週末の集まりを観察することにした。
“チキンおじさん”がくれるかもしれないチーズのかけらを期待していたのも事実だ。
 しかしそれより、僕になれなれしい、この髪の生えた竜巻がどんな奴なのか見極めようと思ったのだ。

 思った通りだ。
 頭の中でジャック・デュトロンの歌「エモア・エモア・エモア(私が、私が、私が)」が渦を巻く。
「あいつ」は大げさな身振りで人を批判し、人の話をさえぎって、何でも自分の話に置き換えては非難する。

 部屋にある酸素を一人で吸い込んで、他人のエネルギーを搾り取ってしまっているようだった。
 ローテーブルの上の雑誌によると、そういうのを「心理的吸血鬼」というらしい。

 あいつは片っ端からすべてを嘆き、批判して、ブラックホール(自分のへそ)の中に吸い取ることをやめない。
 つまらない長話にあくびが出たが、何よりほかの6人が自分の居場所と思考を蝕まれて一言も発せなくなっているのに驚いた。
 あいつは何も与えることなく、奪ってばかり。
 最後に残った3人が疲れきってふらふらになっているというのに、あいつにはまだ何が起こっているのかわからないらしかった。