生物とは何か、生物のシンギュラリティ、動く植物、大きな欠点のある人類の歩き方、遺伝のしくみ、がんは進化する、一気飲みしてはいけない、花粉症はなぜ起きる、iPS細胞とは何か…。分子古生物学者である著者が、身近な話題も盛り込んだ講義スタイルで、生物学の最新の知見を親切に、ユーモアたっぷりに、ロマンティックに語る『若い読者に贈る美しい生物学講義』が11月28日に発刊された。

養老孟司氏「面白くてためになる。生物学に興味がある人はまず本書を読んだほうがいいと思います。」、竹内薫氏「めっちゃ面白い! こんな本を高校生の頃に読みたかった!!」、山口周氏「変化の時代、“生き残りの秘訣”は生物から学びましょう。」、佐藤優氏「人間について深く知るための必読書。」と各氏から絶賛されたその内容の一部を紹介します。

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ハキリアリの農場

 中南米にハキリアリというアリがいる。ハキリアリは名前のとおり、葉を切るアリだ。とても変わったアリで、切った葉を使って農業をする。ハキリアリの農業が進化したのはおよそ5000万年前と考えられるので、人間の農業よりもはるかに古い。

 ハキリアリは葉を切って巣に運ぶ。でも、葉の方がハキリアリより大きいので、まるでたくさんの葉が自分で地面を歩いていくように見える。

 葉を運ぶ道は決まっていて、ある種のハキリアリでは平らにならされた道が100メートルも伸びているらしい。

 葉を運ぶハキリアリとは別に、小型働きアリと呼ばれるハキリアリが道の脇をパトロールしていて、さらに巣は兵隊アリがしっかりと守っている。地下の巣の中の部屋が、ハキリアリの農場だ。

 そこの床に葉を敷いて、キノコの仲間を栽培するのである。数匹がかりで雑草を引き抜いたり、自分たちの糞を肥料にしたりして、きちんと育てて収穫するのだ。

 このようなハキリアリの農場にも、病原菌が侵入することがある。そのために、ハキリアリは、何種類かの抗生物質を使っているようだ。しかし、ずっと同じ抗生物質を使っていると、それに耐性を持った病原菌が現れるのではないだろうか。

 人間の農場でも、雑草などを枯れさせるために、いろいろな農薬を使っている。しかし、使い始めてから10年ぐらいすると、農薬に耐性を持った雑草などが現れる。そのため、農薬を変えたり、他の農薬を加えたりしなくてはならない。

 だから、長いあいだ(一説では数百万年間)同じ抗生物質を使い続けているハキリアリの農場などは、たちまち崩壊してしまうのではないだろうか。

 たしかに、そういうこともあるようだ。しかし、だいたいにおいて、農場はうまく機能している。つまり、だいたいにおいて、ハキリアリの使っている抗生物質はずっと機能している。それはなぜだろうか。