『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)や『わけあって絶滅しました。』(ダイヤモンド社)など、いま動物図鑑が売れに売れている。この2冊の本を手がけた動物学者の今泉忠明と担当編集者の金井弓子による対談企画。第1回は「生き物の魅力」について2人に語ってもらった。第2回となる今回は、ベストセラー作品を生み出す上で、どんな工夫や困難があったのかについてお届けする。(聞き手/澤田 憲)
いちばん絶滅しやすい動物は「環境に適応し過ぎたやつ」
――18年7月に発売された図鑑『わけあって絶滅しました。』では、古代に生きていたさまざまな動物たちの「絶滅した理由」を取り上げています。そもそもなぜ「絶滅」をテーマにされたのですか?
金井 今泉先生と初めてお会いしたときに、進化にまつわる話を1時間くらい聞かせてくださったんですね。それがめちゃめちゃ面白くって。『ざんねんないきもの事典』の冒頭にも進化の話を入れたのですが、さらに調べていくと進化の前後には必ず大きな「絶滅」があることがわかったんです。それで今度は、過去の生き物たちがどんな理由で絶滅したり、生き残ったりしたのかがわかる本を作りたいと思いました。
今泉 「ざんねんないきもの事典」のときは、「巻頭に少しでもいいから進化の話を入れませんか?」って僕から提案したの。動物単体だと面白い豆知識で終わっちゃうけど、「進化」とか「絶滅」とか大きなテーマから全体を見ると、生き物たちの「営みの面白さ」が見えてくるよね。
金井 絶滅というテーマで興味深いのは、必ずしも小さくて弱い生き物だけが絶滅するのではなく、メガロドンとかメガテリウムみたいな、大きかったり力が強かったりする動物も同じくらい絶滅しているんです。それが個人的にすごい引っ掛かって、絶滅動物自体よりも絶滅した「理由」のほうに着眼点を当てたら面白いんじゃないかと思いました。
――『わけあって絶滅しました。』にはさまざまな絶滅理由が書かれていますが、端的にどういう動物が絶滅しやすいのでしょうか?
今泉 単純に言うと「環境に適応し過ぎたやつ」ですね。適応することは大事なんだけど、あまりにも適応し過ぎると、今度は環境変化の影響をもろに受けちゃう。少し気温が変わったり、獲物が少なくなっただけでも致命的になる。
金井 逆に絶滅しにくい、しぶとく生き残るのは?
今泉 「いい加減なやつ」だな(笑)。オポッサムとかね。彼らはどこかひとつの環境に適応しないで原始的な姿のまま生き残ってるんです。能力が特殊化してないから応用が利く。スーツだって、20代の体型にぴったり合わせて作ったら30代には着れなくなるでしょ(笑)。無駄というのは、ある程度あったほうがいい。
金井 なるほどー、よくわかります。
今泉 人間の体型と同じで、地球の環境も常に変化しています。単位があまりに巨大だから気づきにくいけど、今この瞬間にもどんどん変わってるんです。だから1万年、10万年という単位で考えられるかどうか。これは動物に限らず、企業やなんかも皆そうだよね。
リアルさを追求するほど、絵から感情が失われる気がした
――『わけあって絶滅しました。』では、これまでの図鑑にはない新しい切り口がいくつか見られます。例えば動物のイラストは、デッサンではなく絵本のようなタッチで描かれていますが、これはどんな意図があるのでしょう?
金井 そうですね。まず中身の構成を考えるにあたって、絶滅動物のいろいろな参考文献や資料に目を通していきました。それで今泉先生にもおすすめの本を聞いたりして――。
今泉 30年以上前に僕が書いた『地球 絶滅動物記』とかね。
金井 そう、それが本当にすごくて! 写実派の画家が描いたような緻密なイラストが大判にフルカラーで載ってるんですよ。それを見たときに「この絵のクオリティは超えられん……」と思いまして。
今泉 まあ、今とは予算の規模感も違うし、当時は時間もたっぷりかけられたしね。
金井 あと思ったのが、リアル過ぎると全然実感が湧かないなってことです。私たちと同じ地球で暮らしていた生き物の話なのに、『ジュラシック・パーク』みたいなフィクションの世界を見ている気持ちになる。正確さにこだわりすぎると絵から感情が失われるというか、他人事のように見えちゃうんだなって。
今泉 なるほど。あえて絵本のような絵にしたのは、遥か昔にいた生き物と現代の子どもたちの距離感を縮めようと思ったわけですか。
金井 はい。サトウマサノリさんやウエタケヨーコさんの絵は、すごい目が生きているというか、描かれている動物に感情移入できるんですよね。絶滅動物って、すごく珍しい生き物だけじゃなくて、実はゴリラとかトラとかゾウとか有名な動物も絶滅が危ぶまれてる。だから、過去でも現在でも絶滅は遠い世界の話じゃない、人間のすぐ身近で起きていることなんだってことを、子どもたちに感じてもらいたいと思いながら作っていました。