本書『奇跡の組織』では、そのセムコ社の経営スタイル(セムコスタイル)をつぶさに紹介。どうすればセムコスタイルを導入できるかを解説している。

 著者の秦卓民(はた・たくみ)氏は、セムコスタイル・インスティテュート・ジャパン代表で、日本のセムコ式組織改革の第一人者。セムコスタイル・インスティテュート・ジャパンは、セムコ社CEOが立ち上げたコンサルティング会社、セムコスタイル・インスティテュートとライセンス契約を結んでいる。

 本書によると、セムコ社には、ミッションステートメント(企業理念)、組織階層や組織図、事業計画、長期予算といった、3000人規模の会社では常識とも思えるものが一切ない。

 それでいて、きわめて高い平均売上成長率を実現し、離職率はわずか数%だという。自由すぎる組織運営でも高い成長率を維持できるセムコスタイルの秘密を、さっそく見ていこう。

勤務時間や場所から給料まで
社員が自分で決める

 セムコスタイルは、現CEOのリカルド・セムラー氏が作り上げた。

 セムコ社は父親のアントニオ・セムラー氏が起業した会社だ。リカルド・セムラー氏は、1980年に21歳の若さで父親から経営を引き継ぐと、通常では考えられないやり方で改革に取り組み始めた。

 彼は、それまでにあった就業規則などのルールや制度をことごとく廃止し、従来の社員管理の仕組みや階層的な組織構造を、より民主的なものに置き換えていったのだ。

 それは、父親である前CEOが、社員を監視しているように感じていたからだという。自分は同じ轍を踏みたくない、それならばもっと社員が自発的に楽しく働ける環境をつくるべきではないのか。それですべての社員が生き生きと働けるのであれば、会社はさらに成長できるかもしれない。セムラー現CEOはそう考えた。

 そのために、従来の就業規則で定められていたことを、社員自身が決められるようにした。

 例えば、「午前9時から午後5時まで」という就業時間を廃止した。まだフレックスタイム制が一般的ではなかった頃である。当初は「うまくいくはずない」という声もあったそうだが、現在、セムコ社の社員は、自分と会社の都合のいいように、自ら出社時間と退社時間を決めている。

 働く場所も自由化。自宅、カフェや公園など、自分がリラックスでき、最も作業効率が上がる場所で働けるようにした。

 自分で決められるようにしたのはそれだけではない。なんと給料もだ。セムコ社では、社員が「なぜその額なのか」を合理的に説明できる限りにおいて、給料を自己申告で決められる。

 そうした諸々の自主判断をしやすくするために、セムコ社では、会社の財務状況や本人の役割や職種に関連するデータ、同じ職種での市場の標準給与帯などの情報を、プライバシーに抵触しない範囲で全社員にオープンにしている。