激震が市庁舎を揺るがす数分前、岩手県陸前高田市の戸羽太市長(46)は、この海沿いの小都市の市長に就任して以来、ひと月ぶりに静かな金曜の午後を過ごしていた。3月11日午後2時40分、戸羽市長は妻の久美さんに電話をし、夕飯は息子2人を連れて焼き肉にでも行かないかと提案した。妻は、またメールで返事をするね、と約束した。2時46分、宮城県沖で起きたマグニチュード9の地震がこの町を揺るがし、電気と電話を不通にした。その後間もなく、高さ12メートルを超える黒い水の壁が6メートルの堤防を突き破り、市の中心へと流れ込んだ。市長と数十人の住民は、市の中心街にある鉄筋コンクリート4階建ての市庁舎の屋上目指し、慌てふためいて階段を駆け上がった。津波の水位は、市庁舎の最上階に達するほどだった。
震災が変えた運命-陸前高田市長の苦悩
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