40歳を目前にして会社を辞め、一生懸命生きることをあきらめた著者のエッセイが、韓国で売れに売れている。現地で25万部を突破し、「2019年上期ベスト10」(韓国大手書店KYOBO文庫)、「2018年最高の本」(ネット書店YES24)に選ばれるなど注目を集め続けているのだ。
その本のタイトルは、『あやうく一生懸命生きるところだった』。何とも変わったタイトルだが、現地では、「心が軽くなった」「共感だらけの内容」「つらさから逃れたいときにいつも読みたい」と共感・絶賛の声が相次いでいる。日本でも、東方神起のメンバーの愛読書として話題になったことがあった。
そんなベストセラーエッセイの邦訳が、ついに2020年1月16日に刊行となった。この日本版でも、有安杏果さんが「人生に悩み、疲れたときに立ち止まる勇気と自分らしく生きるための後押しをもらえた」と推薦コメントを寄せている。多くの方から共感・絶賛を集める本書の内容とは、果たしていったいどのようなものなのか? 今回は、本書の日本版から抜粋するかたちで、著者の大学受験体験について書かれた項目の一部を紹介していく。

韓国の受験生を七浪させる「ホンデ病」

 青春時代、不治の病をわずらっていた。その名も「ホンデ病」(※ホンデ=弘益美術大学、韓国一の難関美大)。美大を目指す受験生たちの間に蔓延する流行りの病だ。

 僕が受験生だった頃、この病にかかって七浪もしているという浪人生の噂が予備校街を駆け巡っていた。ホンデじゃなきゃ美大にあらず――。こうして7年間も浪人生活を送らせる、恐ろしい不治の病だ。ウソかマコトか定かではなかったが、それほどまでに恐ろしい病らしいと噂になっていた。

 そして、いつしか僕もその恐ろしい病に感染してしまっていた。

 高3のとき、ホンデを受けて落ちた。ほかの大学には合格していたが、当然蹴った。滑り止めに行くよりは、一浪してホンデに行くほうが、当然価値があると考えていたからだ。

 しかし翌年、再び落ちた。

 そんなバカな、貴重な1年を費やしたのに。ここであきらめては、この1年がムダになる。合格できなかったのは努力が足りなかったからだ。もう1回、もう1回だけ挑戦しよう……。

 そして、二浪した。今振り返ってみれば、ここでやめておくべきだった。

 次こそは必ず合格しなければならない……。誰よりも頑張って、誰よりも合格を願った。「神様、ホンデに受からせてください」と毎日お祈りもした。

 それなのに、オーマイガッ! またまた落ちてしまった。三度目の不合格だった。

 合格発表のあった夜、ホンデ近くの橋の上から、冷たい漢江(ハンガン)の川を見下ろしていた。僕の人生、終わったなと思った。橋の上から人生を終わらせようと考えていた。三度も挑戦して落ちるなんて、どういうわけだ? 

 自分より下手くそなやつらが合格したのに、なんで落ちたんだろう? 
 緊張しすぎたせいだろうか? 

 確かにホンデの受験会場に足を踏み入れて、ただの一度も実力を発揮できたためしがなかった。それどころか、いつも惨敗で会場を後にした。誰かが、実戦で力を発揮できてこそ本当の実力だと言っていたがまさにその通りだな。

 とにかくホンデに合格はできなかった。それはすなわち実力不足、努力不足を意味した。言い訳なんか必要ない。自分は負け組だ。どの面下げて親に会えばいいのか。そう考えると、このまま潔く死んだほうがいいと思った。

 そうだ、死のう……! 

 そう考えたが、恐ろしくてどうしても飛び降りることができなかった。死ぬ勇気すらない卑怯な自分に、ますます惨めな気持ちになり、泣きながら橋を渡り終えた。冬の風が冷たかった。どうやらこのへんが年貢の納め時のようだった。