年金支給時期に関する
誤解が蔓延している
先日、会社員等が加入する厚生年金について、厚生労働省が「一定額以上の収入などがある場合については、70歳以上も加入して保険料の支払いを義務付ける」ことの検討に入る、という内容の報道があった。また、政府が主催する「未来投資会議」においても、5月15日に行われた会議の資料を見ると、「70歳までの雇用義務を努力規定化する」という方向が打ち出されているため、現行は原則65歳から支給されている公的年金の支給開始年齢が70歳、あるいは75歳に引き上げられるのではないかと、勘違いした人が多かったのではないだろうか?
確かにタイトルだけを見ると、イメージとしてはそう解釈する人もいるだろう。しかしながら、内容を詳細に見ていくと、年金の支給開始年齢が引き上げられるという話ではないことがわかる。
公的年金に関しては、何か記事が出るたびに、マイナスイメージに受け取られることが多いのだが、実際にはいろいろなことがごっちゃになっていて十分理解されていなかったり、誤解されていたりする部分も多い。これにはさまざまな理由があるが、政府や管掌する役所にも、制度をわかりやすく説明する努力が足りないことは事実だ。そこで今回はこれら一連のニュースや現在考えられている方向について少し整理をしてみたい。
少し前に「公的年金の受け取り開始時期を75歳まで延長を検討」という新聞記事が出たことがあったが、その時も「年金は75歳からしか受け取れないのか!」と思った人は多かっただろうと思う。しかしながら、これは完全な誤解だ。
年金の受け取り開始年齢は現在、原則65歳ではあるものの、これは65歳からしか受け取れない、あるいは65歳になったら受け取らないといけないというわけではない。最大5年繰り上げて60歳から受け取り始めることもできるし、逆に最大5年繰り下げて70歳から受け取り始めることもできる。要は60歳から70歳までの間の任意に好きな時から受け取りを開始することができるのである。「受け取り開始時期を75歳まで延長」というのは、いわばその選択肢の幅を60~75歳までに広げようとしているにすぎないのだ。
なぜ、そのようなことを検討しているのかというと、高齢になっても働く人が増えていることが背景にある。内閣府が発表した平成30年版高齢社会白書によれば、70~74歳の就業率は27.2%、そして75歳以上の就業率は9.0%となっている。具体的な人数で見ると、70歳を超えてサラリーマンをやっている人は、役員を除いても180万人以上いるといわれている。
よく勘違いしている人がいるが、年金は貯蓄ではなくて保険である。年を取って働けなくなり、収入が途絶えた時に、生活していけるようにするための保険なのである。したがって、70歳を超えても元気で働き、一定以上の収入があれば、必ずしも年金を受け取る必要はないという人だっているだろう。現在は支給開始年齢を遅らせても70歳になれば受け取り開始をしなければならないが、人によっては年金受け取り開始をもっと遅らせて75歳からにしたいと思う人がいてもいい。