「個人のメンタルヘルスの問題ではなく、組織の在り方の問題でしょう。全般的な人員不足の問題もあります。組織でケースワーカーを支えられる制度を、どうすればつくれるのか。現実的に考える必要があると思います」(Cさん)

 人員不足の原因は、地方分権改革の名のもとで続く公務員削減だ。とはいえ、何もできないわけではない。たとえば神奈川県小田原市は、2017年の「保護なめんな」ジャンパー事件を契機として全庁的な改革に取り組み、福祉事務所の孤立とケースワーカーたちの孤立を解消し、生活保護行政に関して多様な取り組みを重ねている。

 元ケースワーカーで、小田原市の生活保護改革にも関わった櫛部武敏さん(釧路管内生活相談支援センター長)は、経験を踏まえ、次のように語る。

「当事者である担当ケースワーカーは、どれほど困り果て、心細かったことでしょうか。推察するに余りあります。そもそも『行政を対象とした暴力』という認識が、向日市の全庁的に、また上司にあったのかどうか疑わしいという印象も持ちました。研修に基づく対処マニュアルや訓練など、市としての構えもなかったのではないでしょうか」(櫛部さん)

司法はこの異様な
事件をどう裁くのか

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 その認識や構えは、行政が行政である以上は当然のこととして求められる。

「公平・公正な行政の遂行には、組織としての毅然とした意思が欠かせません。職員を守り、職務遂行の防波堤になるのが管理職であり、市役所組織ではないでしょうか。『ケースワーカーの対応が悪くてすみません』と個人に責任を押しつけるとは……。保身でしかなく、管理職としてあるまじきことです。『許しがたい』と感じます」(櫛部さん)

 民間企業でこのような状況が続くと、優秀な社員から転職していく。いずれは企業活動の継続が危機に瀕し、市場から退場させられるはずだ。しかし行政組織は、危機に瀕しても退場できず、住民や民間企業を巻き込むことになる。筆者は、この20年間で加速した行政組織の縮小こそ、危機の正体だと考えている。

 この状況を、司法はどう認識し、判断するだろうか。司法の認識と判断は、今後のY氏の公判と判決に、どう反映されるだろうか。引き続き、関心をもって見守ろう。

(フリーランス・ライター みわよしこ)