『外資系で自分らしく働ける人に一番大切なこと』は著者の宮原伸生さんが、日本企業を飛び出し、ベネトンスポーツ、日本コカ・コーラ、LVMH(モエヘネシー・ディアジオ)、ケロッグ、GSK(グラクソ・スミスクライン)などで、もがきながら見つけた「新しい働き方」を紹介する本です。そのエッセンスをコンパクトに紹介します。
ついカッコつけたり、斜に構えてしまう日本人
グローバル企業では、リーダーとして人を率いる立場にある者は、ミッションやバリューを正しく伝える伝道師(エヴァンジェリスト)であることが求められます。
「この数字を出さなくてはいけない」と言うだけでは、今の人は動いてくれません。どうしてこの仕事をやる意味があるのか、を語れないといけないのです。
もちろん、具体的に今何をすべきか、リーダーは部下に指し示す必要があります。しかし、そのときにちょっと引いた目線で、自分たちが何であるのか、何をしようとしているのか、について俯瞰するメッセージを発信しなくては、部下は本気で動いてくれません。
ただし、この手の話は格好つけて言おうとすると“空回り”してしまいます。自分の問題に結び付けて、無理のない形でうまく伝えていくコミュニケーション力が必要になるのです。
恥ずかしがったり、斜に構えて「まぁ、これはこれとして」と、すぐに話をそらしたりすることは、絶対にしてはいけません。そうすると同僚や部下は、「ああ、この人は本当はわかっていないんだな」と思ってしまいます。
大切なのは、思いを具体的な行動に落とし込んでいく力です。1つ例を挙げましょう。私がGSKのコンシューマ部門の社長をしていたとき、事業の1つに義歯ケアがありました。同社のミッションは“To help people do more, feel better, live longer”でした。私も、とても気にいっているミッション・ステートメントです。
私たちの役割は、人がもっといろいろなことができるようにお手伝いをすること。そうすると気持ちが高まり、長生きができるという意味ですが、義歯ケアはこのミッションにとても合致している事業なのです。
義歯ケアを通じて口腔を健康に保つことで、ちゃんと食べたり話したりできれば、肉体的にも精神的にも元気になる。ただ単に「義歯ケアの製品を売りなさい」と言うのと、「こういうミッションの下でこの製品は作られているんだ」と言うのとでは、どちらが社員のモチベーションを高めるでしょうか。
そして、このミッションを伝える際には、できるだけ自分の生活や周囲の出来事などに結び付けて、部下がより実感できるようにすることをリーダーには求めていました。例えば、「自分の祖母が義歯だった」とか、「歯医者さんに行ってこの話をしたら、とても賛同してもらえた」という話から入っていく。そうするとミッションをより理解しやすくなるし、リーダーのミッションへの思いも伝わります。
ところが、意外にこれが難しいのです。ついつい、「ミッションでこううたっているから」「社長が大事にしろと言っていたから」などと、他人事として伝えてしまう。するとメンバーは興覚めしてしまいます。
残念ながら、こういうリーダーはメンバーから尊敬されません。せっかくモチベーションを高められるミッションがあるのに、それを信じていない。「お題目だろ」などと考えてしまう。結果として部下に、この人はミッションを理解していない、伝える力がない、と思われても仕方がありません。こういうチームでは、良い結果を出せません。
日本人がこういうことがあまり得意でないのは、ミッションやバリューへの思い入れに温度差があることに加えて、そもそも概念を突き詰めるスキルが不足している、ということがあるのでしょう。概念的な話が苦手なのです。
「なぜ」を重視する教育を受けていないから、というのもあるかもしれません。努力・工夫して結果が出ればいいという「現実主義的」な考え方が中心で、原理原則にあまり関心がない。原理原則と言うと、屁理屈のように捉えてしまう人が多いように思います。
ただ、世の中がどんどん複雑になっていく中で、原理原則の持つ意味はこれまで以上に大きくなっています。だから、それをちゃんと理解し、そこに込められた思いを具体的に落とし込む力が重要になってきているのです。