2019年の金相場は、5月末に1トロイオンス当たり1300ドル、6月下旬に1400ドル、8月上旬に1500ドルと次々に節目の水準を突破し、9月4日には1557ドルと6年ぶりの高値を付けた。
高値の背景としては、米国の金融政策が引き締め方向から緩和方向に転じたことが大きかった。
また、米中貿易摩擦がエスカレートし、投資家のリスク回避志向につながったこと、米国の景気後退入りが懸念されたこと、英国のEU(欧州連合)離脱を巡って先の見通せない状態が続いたことなどから安全資産の金が買われた。
その後は、サウジアラビアの石油施設への攻撃、「ウクライナ疑惑」による米大統領弾劾の動き、主要国の製造業関連指標の悪化などが金買い材料になったものの、金売り材料がやや優勢となった。
米国の金融政策は0.25%の利下げを3回続けた後、さらなる追加利下げは行わず、しばらく様子見の姿勢を取った。米中貿易協議では、19年10月11日にトランプ米大統領が第1段階の合意に達したと表明し、その後、12月13日には米中両政府が正式な合意に達したと発表する運びとなった。
12月12日に行われた英総選挙では与党の保守党が圧勝し、1月末までの英国のEU離脱が確実な情勢となった。離脱関連法案は議会を通過し、市場参加者が恐れていた「合意なき離脱」ではなく、「合意ある離脱」が実現する見通しが強まった。
20年の金相場は上値が重いながらも底堅い推移が見込まれる。影響の大きい米国の金融政策は、一段の金融緩和は見込めないものの、引き締めに転じるまでにはまだ時間を要し、緩和的な金融環境が継続するだろう。
米中貿易協議は、米大統領選挙を控える中、第1段階の合意に達した後は小康状態になり、新たな関税引き上げなどは回避されるだろう。米中摩擦への懸念は和らぎ、ややリスク資産買い・安全資産売りの傾向となろう。ただし、大統領選後に対立が再激化する懸念は残り、大幅な金売りにもつながりにくい。
米大統領選の展開も材料だ。今のところ、民主党候補が小粒であり、トランプ氏は弾劾訴追にもかかわらず、強固な支持層を背景に優位との見方が多い。だが、同氏が不利になると、大型減税の撤回などが連想され、安全資産買いにつながる可能性がある。
英国のEU離脱も、今後のFTA(自由貿易協定)交渉などがどう展開するか不透明だ。
高値圏にある株式や債券の相場が崩れることへの市場の警戒感も金買いを支える要因になっている。
金相場は米国市場金利やドル相場とともに変動しつつ、1300~1600ドル程度で推移しよう。
(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)