ソレイマニ司令官殺害を
なぜトランプは選択したのか
米トランプ大統領は1月8日、イランに対する武力行使を回避すると同時に、経済制裁を強化する方針を表明した。これにより、イラン側の組織だった大規模な抵抗の可能性が後退し、中東地域の不安定化リスクは一旦沈静化する形となった。
ところで、米国防省が描いたソレイマニ司令官殺害という「実行の可能性が低いシナリオ」を、なぜトランプ大統領はあえて選択したのだろうか。
ソレイマニ司令官はイランの国外での工作活動に従事する「コッズ部隊」のトップであり、米国でいうならばCIAの長官に当たるポストである。ソレイマニ司令官は、ブッシュ(子)、オバマ時代から場合によっては殺害すべき対象として認識されていたが、実行すればイラン情勢がさらに悪化するとの判断で見送られてきた。
にもかかわらず、トランプ大統領が実行した背景には、今年11月に予定されている米大統領選挙があったと考えられる。
イランでは1979年に親米のパーレビ王政を倒すイラン革命が起きた。その後、首都テヘランのアメリカ大使館で外交官が人質に取られる事件が起きた。そのとき、米国側の対応が不十分だったとして、カーター大統領が大統領選に敗北した。
トランプ大統領の頭にそれがよぎったのではないか。おそらく、その後の両国の軍事衝突という事態までは瞬時に想定していなかった可能性が高い。
米グローバル・ファイヤーパワーの軍事力ランキングでは、イランの軍事力は世界で14位に位置しており、同地域で覇権を争うサウジアラビア(25位)を上回っている。また、イスラエルは核兵器を保有している可能性があるため評価が難しいが、同ランキング上では17位と、イランよりも下位にある。