習近平の肝いりで
半導体市場の覇権を狙う中国

 なぜそこまで中国が半導体メーカーから必死に人材を引き抜いているのかというと、「国策」のためだ。半導体市場の覇権を握るというのは、習近平肝いりの産業政策「中国製造2025」の大黒柱なのだ。

「中国製造2025」とはわかりやすくいえば、中国を世界一のものづくり国家するという野望を達成するためのロードマップだ。以下のような3つの段階に分かれている。

(1)2025年~2035年で「製造強国」への仲間入りを果たす
(2)2035年までに世界の「製造強国」の中等レベルへ到達する
(3)2049年(中国建国100周年)までに製造大国の地位を固め、製造強国のトップとなる

 この中の最初の目標を達成するために必要不可欠とされているのが、2025年までに中国国内の半導体自給率を70%にするという目標である。もちろん、半導体ビジネスはそんなに甘いものではない。海外の専門家からは「無謀」「成功は絶望的」と厳しい声が上がっているが、「国策」に逆らえない中国企業は口が裂けても「頑張ったけど無理でした」などは言えない。

 つまり、今回の三菱電機へのサイバー攻撃は、あと5年で半導体自給率70%にするというミッションインポッシブルのため、日本の優秀な人材を引き抜くという作戦のもと、そこで必要になるターゲット人材の詳細なプロフィールを収拾するために行った可能性も否めないのだ。

 ちなみに、三菱電機は2018年7月、「中国製造2025」の実現に向けて、中国政府直轄の機械工業儀器儀表綜合技術経済研究所と戦略的パートナーシップ契約を交している。中国にとって三菱電機は国策遂行ため必要不可欠な「外国企業」なのだ。そこの人材を自国企業で囲い込みたいというのは極めて自然な発想だ。

 と聞くと、「いやいや、だったら高待遇の求人を出せばいいだけの話だ。いくら中国でもわざわざサイバー攻撃などするわけがない」と思う方もいるかもしれないが、そうせざるを得ない日本特有の事情がある。

 それは「離職率の低さ」だ。

「最近の若者はすぐに辞める」と嘆く人事担当者も多いだろうが、実は日本の電機メーカーは離職率がそれほど高くない。新卒3年で辞める割合が20%という業界もある中で5%程度なのだ。この傾向はベテランも同様で、「カネがもらえるなら世界のどこへでも行きまっせ」という人はそれほど多くないのだ。