高木 そうなんです。しかし、仮に暗号通貨を取引したとしても、ユーザーが得る体験自体は、ネット証券やネット通販のeコマースのサイトと同じようなもので、いつも通りサイトやアプリを触っているのと何ら変わらない。その裏でどんなシステムが動いているのかは、ユーザーには見えません。

秋山 通貨の取引に関していえば、ユーザーにとってはビットコインも、株やドル・円の取引も、やっていることは同じに見えてしまうんですね。

高木 また、ブロックチェーンは「自律分散型」であるという点も革新的なのですが、分散的であることのメリットが一様には感じられないことも、一般ユーザーが価値を実感できない理由の一つだと思います。

秋山 自律分散型というのはキーワードですね。詳しく教えていただけますか。

中央集権型の従来のシステム
自律分散型のブロックチェーン

高木 一般的な管理システム(組織、通貨発行の仕組み、国家など)には、中央に一番えらい人がいて、その人に情報や権限が集中し、上意下達で命令が伝えられ、その組織のネットワークのすみずみまでコントロールしていました。いわゆる中央集権型、ピラミッド型のヒエラルキー構造です。例えば国家なら大統領や首相が、通貨なら中央銀行が、組織なら社長がその一番上というか中央にいて、組織や貨幣の流通を統制する仕組みです。

 ブロックチェーンは、これとは全く違います。誰かが一番えらいということはなく、みんなが平等にネットワークにつながって情報台帳を共有しています。みんなで情報を共有して、その情報の信頼性を保証するという形です。技術的な解説は省略しますが、その信頼性を保証するときの暗号の使い方が、ブロックチェーンの技術なのです。

秋山 ブロックチェーンが生きるのは、決定する権力を分散させるべき場面だということですね。

高木 そうです。場面によって、向き不向きがあるということです。例えば、中央集権型のシステムで何かを決めるときには、最終的に一番えらい人が決めればいいので、そんなに時間はかかりません。一方、分散型の場合は参加者全員が平等なので、意見がまとまらない場合、物事が決めにくい。効率を考えると、何かを決める際には意思決定の得意な人に任せたほうがいいのです。

 つまり、ブロックチェーンは何にでも汎用的に使えるのではなく、その技術が持つ分散性がそぐわないような場面もたくさんあるということです。これもブロックチェーンが爆発的な普及に至らない理由の一つです。