日本中を驚かせたカルロス・ゴーン被告の海外逃亡劇。保釈中の被告が出国してしまった場合、日本での裁判はどうなるのか。外国ではどういう扱いを受けるのか。そして日本へ連れ戻すことはできるのか。前代未聞の事件について大量の報道が行われ、情報が錯綜している。東京地検特捜部副部長や東京高検検事を歴任した若狭勝弁護士が、問題の真相をわかりやすく解説する。(聞き手/ダイヤモンド編集部 副編集長 小尾拓也)
ゴーン氏逃亡は前代未聞
真の「抜け穴」はどこに?
――日産自動車の経営をめぐり、複数の罪状で起訴されている元会長のカルロス・ゴーン被告が、保釈中にレバノンへ海外逃亡するという事件が起きました。過去、似たような事件が起きたことはあるのでしょうか。
被告人が裁判所の許可を得ずに、独断で国外へ逃亡した事例は、私が知る限りありません。少なくとも、東京地検特捜部が手がけた案件にはなかったはずです。まさに、前代未聞です。
――ゴーン氏の出国を許した日本側の体制には、様々な「抜け穴」があったといわれています。
今回の事件は、法の抜け穴を突かれたというものではありません。現状では、不法出国しようと思えば、ヨットで海を渡航するなどいくらでも方法はあるからです。
問題は、危機管理体制の抜け穴です。本来なら厳しく行われるべき、空港での出国検査の緩さが露呈してしまいました。楽器の箱に隠れた被告にプライベートジェットでいとも簡単に海外逃亡されてしまったことは、非常にショッキングな出来事でした。
私は国会議員時代にテロ対策特別措置法の草案を作成していましたが、当時、国会議員の危機感が薄かったことを思い出します。たとえば、テロリストがプライベートジェットにサリンなどの毒物を積み、空から五輪会場などに散布したら、大惨事になる。今回はテロとは違いますが、日本のプライベートジェットの検査体制には課題があると、以前から思っていたのです。
ゴーン氏逃亡後、国交省は早速、プライベートジェットに持ち込む荷物の検査を徹底せよとの通達を出しましたが、皮肉にもゴーン氏が日本の体制整備を促した格好ですね。