優美子が森嶋のほうを見ている。東京経済新聞のスクープということは理沙が関わっていると思っているのだ。そして理沙が関係しているということは、森嶋も関係していると。
千葉が新聞を取って読み上げ始めた。
「政府は3年以内に首都移転を実行するために現在、移転チームを立ち上げ作業に入っている。リーダーは元首都移転準備室の室長、村津信一郎。各省庁から若手官僚が集められ、作業に入っているという。この若手官僚ってのが俺たちなんだろ」
「それは官報にも載ってることだ。一般に知られてなかっただけだ」
森嶋の言葉を合図のように様々な声が飛び交い始めた。
「確かにそうだ。しかしこうして書かれて、写真まで載っても、首都移転なんて実感わかないよな」
「国交省には問い合わせの電話がかなりあるようよ。代表電話は7時から対応してるんだって。どうせ、まともな応対は出来ないでしょうに。だって何も知らないんだから」
「やはり問題は、どこから漏れたかだ。村津さんの話だと国交省でもあの新首都模型を知っているのは我々のチームだけなんだろ。やはり、ここの誰かが――」
「変なこと言うなよ。民間の者だってかなりな数の者が知ってるはずだ。俺たちだけが蚊帳の外だったんだ。あの設計事務所のスタッフだって、長谷川という建築家が言ってた情報インフラを扱ってる企業の者だって、新首都について俺たちよりは具体的に知ってるんだろ。そうでなけりゃ、あれだけの仕事は出来ないぜ」
「そうだ。1年や2年で出来る仕事じゃない」
「しかし、大騒ぎが起こるぜ。政府が国民に極秘でこんな重要事項をこれだけやってたと言うことが表ざたになったんだ」
「静かにしろ。1時間前に緊急閣議が招集された。官邸にはマスコミが押しかけてるそうだ」
携帯電話で話していた総務省の男が言った。
「やはり新首都模型がマスコミに漏れたことについてか」
「他に何があると言うんだ。しかし、閣僚もあの模型については今朝の新聞で初めて知ったらしいぜ。だから慌ててる」
「官邸を含めて、政府機関の電話は未明から鳴りどおしだって聞いた。しかし、首都移転について具体的に知っている政府職員なんているのか」
そのとき、ドアが開き村津と遠山が入ってきた。国交省の事務次官室から帰って来たのだ。
「みんな早いな。今日は長い1日になりそうだ。私はこれから総理官邸にいかなければならない。今日は外部との対応で1日が潰れる。後のことは遠山君の指示に従ってくれ。よろしくお願いする」
村津は姿勢を正して全員を見渡した。