第3章
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国交省に着いたところで携帯電話が鳴り始めた。
理沙かと思ったが違っていた。
森嶋はトイレに入って携帯電話のボタンを押した。
〈なんで俺に教えなかった。色々、適切なアドバイスが出来たはずだ〉
ロバートの声が鼓膜を直撃してくる。
「何のことだ」
〈とぼけるな。こういう重要事項は総理が発表するものだ。あの下手な写真は明らかに隠し撮りだ。新聞社のスクープなら日本政府の機密事項に対する管理能力が問われる〉
彼は日本語が全くダメだ。覚えようとする気もまったくない。すでに記事は英訳され、アメリカは知っているのだ。
「俺だって驚いてる。本当に突然の記事だったんだ」
〈あの写真があるってことは、すでに新首都の場所が決まり、基本構想が出来てるってことか〉
「そうとは書いてないだろ。場所なんて一言も出てないし、あの写真の都市も一つのモデルにすぎない」
〈インターナショナル・リンクのビクター・ダラスと会ったことと関係あるのか。彼は政府の首都移転計画を知って、日本の降格を見送った〉
「想像に任せる。俺の口からは言えない」
〈今から会いたい〉
「俺には仕事がある。今ごろ省内では大騒ぎだ。今日の仕事が重要だと言うことはお前にだって分かるだろ」
〈今夜はどうだ〉
「分からない。俺のほうから連絡する」
森嶋は返事を待たず携帯電話を切った。