カルロス・ゴーン被告の無断出国ではないが、外資系企業では、有事に経営者が姿を消すという事態にしばしば遭遇する。そして、無断出国を是認する見方もあるほど、国によって見方が異なる。(モチベーションファクター代表取締役 山口 博)
東日本大震災直後に
出国が続出
外資系企業に勤務していると、しばしば経営陣が突如、役割を放棄して帰国してしまう、という事態に直面する。私も、外資系企業の日本法人の人事部長時代に、外国人経営者が突如姿を消すという経験をした。東日本大震災直後に、CFOがいつの間にか母国へ帰国してしまったのだ。それも、CEOをはじめ日本法人の誰にも、何の連絡もせずに、だ。
外資系企業におけるCFOの権限は、特に大きい。CEOを務める人物の2つの目と、CFOの2つの目の、合わせて4つの目でコントロールするという意味で、4eyesで経営することが求められている。その片方の役割を担う人物がいなくなってしまったのだ。
数日後に連絡が取れ、CFOは母国にいることがわかった。そのときの日本人社員の反応は、「もう日本に帰ってこなくてもよい」という辛辣なものだった。CEOをはじめ幹部はこぞって、震災後の社員や取引先の安否確認に奔走していたからだ。組織の長の一人として、役割を果たせなかったという以前に、何のコミュニケーションを取ることもなく、役割を放棄してしまったのだから。
私は何も帰国するなと言っているのではない。その時期、「うちの外国人幹部もエキスパートは帰国したよ」「ここぞとばかり一時帰国制度を使って帰ったよ」という他社の人事部長は多かった。
事実、東日本大震災の前後で、外国人の出国者数は激増している。震災発生前の1週間(3月5日から11日)では14万人だったのが、震災発生後の1週間(3月12日から18日)では24万4000人になっている。