ロブ・カナレスウエットスーツにデザイン思考の考え方を応用しROKAを立ち上げたロブ・カナレス氏(左) Photo:Bill McCullough for the Wall Street Journal

――筆者のジョン・D・ストールはWSJのビジネスコラムニスト

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 人間が商売をするようになって以来、もっとうまい商売のやり方があると売り込む人が絶えたことはない。

 垂直統合が大流行したあとはアウトソーシングの波が訪れた。日本の「リーン(無駄のない)」経営が人気を博し、その後米国ではシックスシグマが注目された。そして今、最新流行のビジネストレンドはデザイン思考だ。

 スタンフォード大学が社会人向けに開講している4日間で1万3000ドル(約140万円)のセミナー「d.school」などデザイン思考の短期集中講座は今では経営幹部の履歴書に欠かせない。フォード・モーターのような大企業も組織の活性化を目的にデザイン思考部門を立ち上げている。

 シリコンバレー発祥のデザイン思考は製品やサービスを開発する際に顧客のニーズを最優先する考え方で、アップルのiMac(アイマック)や子どもにやさしい磁気共鳴画像装置(MRI)、仕切りのないオープンオフィスはデザイン思考の産物だ。赤字を計上していても帳簿上は数十億ドルの価値がある多くの新興テクノロジー企業もデザイン思考から生まれた。

 「誰かがライター用の燃料を注いだみたい」。テキサス大学オースティン校のデザイン学部長を務めるケイト・カナレス氏はデザイン思考の人気ぶりをこう表現した。同氏はデザイン思考の火付け役とされるIDEOとフロッグ・デザインに勤務した経験があるこの分野の専門家だ。

   ただカナレス氏によると、デザイン思考が業績に与える直接的な影響を厳密に測定するのは困難だという。デザイン思考は本当に売り上げを伸ばし、利益を押し上げているのだろうか。それとも企業が好き勝手にやるための言い訳にすぎないのか。デザイン思考は学校制度や企業、病院の運営にふさわしい長期的戦略だと本当に言えるのだろうか。それともただの一時的な流行で、やがては廃れたビジネス用語の仲間入りをする運命にあるのだろうか。

 こうした疑問はよく知らない仕組みを採用するのに大金を支払う企業の幹部にとって重要な問題だ。デザイン思考を使って既存業界に破壊的な変革を起こしたり、何世紀も前に誕生した製品を刷新したり、経営難の企業を立て直したりしようとしている場合はなおさらだ。

 フォーチューン50社のCEOのうち、約3分の1が工学系の出身、4分の1近くが財務か会計の出身、約20%がビジネス専攻で、デザインの学位を持つ人は一人もいない。このことは頭に入れておかなければならない。

 デザイン思考をおおざっぱに採用したり、盲目的に受け入れたりすれば、デザインのプロセス全体の質が下がりかねないという懸念もある。ペンタグラム・デザインのナターシャ・ジェン氏は2017年のTEDトーク「デザイン思考なんてばかげている」の中で、デザインの経験がないままデザイン思考を実践すると、アイデアを厳しい批判にさらしたり、掘り下げた調査を行ったり、試行錯誤を通じて直感を検証したりするなど重要なステップを避けることが多いと指摘した。