イノベーションにつながるアイデア
日本のビジネスパーソンは、自社の事業以外の、“外”での経験が少なく、イノベーションにつながるアイデアの創造が苦手な人が多い Photo:iStock/gettyimages

 日本企業の間で「デザイン思考」の導入がはやっている。新事業の創造が喫緊の課題と認識し始めた企業トップが、「社員の事業創造力を高めるためにデザイン思考を取り入れよう」というわけである。

 だが、デザイン思考ははやっている割に、その本当の意味が理解されにくい厄介な代物である。

 デザインというと、意匠設計や美的設計を連想するが、デザイン思考はそれよりも広い概念だ。「画期的な製品やサービスをデザインし、イノベーションをもたらす発想法」というのが一般的な説明のようだが、それでも抽象的でよく分からない。

 デザイン思考の源流の一つは、スタンフォード大学でプロダクトデザインを研究していたデビッド・ケリー氏が創業した米IDEO(アイディオ)だ。アップルが最初に開発したマウスのデザインを手掛けたことで知られる。

 IDEOの強みは製品だけではなく、サービスやサポートなども包含した、事業全体の青写真を描く活動だ。例えば、鉄道会社のプロジェクトでは「人が移動する」ことはそもそも何なのか、という視点で議論していた。ユーザー自身も気が付いていない根源的な課題をあぶり出して、新たなユーザー体験をデザインするのである。この思考は、「人の移動」をどうデザインするか、という原点に戻り、自動車の所有や公共の交通機関の在り方を考える、現在のモビリティーの議論につながっている。

 デザイン思考は、良い製品やサービスをつくれば売れるという、サプライヤー中心の考え方や視点を百八十度転換し、顧客の潜在的なニーズや課題を抽出し、そのソリューションを提供する思考プロセスだといえる。その思考プロセスを実行しやすくするために、いろいろなフレームワークや手法をつくり、それが「デザイン思考」という体系にまとめられている。

経験の引き出しを増やす

 デザイン思考のフレームワークは、「基本的な質問」「気付き」「アイデアの創造」「アイデアの具体化」「具体案の検証」「ストーリーによる表現」と、一見すると単純で簡単なものに思える。しかし、その中身は、ユーザーを観察し、創造的に発想して具体的な案にまで落とし込む、個人のセンスやスキルが欠かせない。

 では、デザイン思考のセンスやスキルはどう訓練できるのか。残念ながら、座学で講義を受けるだけでは効果は低い。

「見て分からんものは、聞いても分からん──」

 私が小学生のころ、既に高校生だった兄たちに何か質問するとよく言われた言葉だ。いろいろなものを観察・体験し、自分の頭で考えないままに「なぜ?」と質問する人に、どんな説明をしても理解はできないという意味の戒めだ。

 デザイン思考を得るためにも、製品やサービスの現場で、そのユーザーをつぶさに「見る」ことが重要だ。いくら教室で「デザイン思考とは何か」の講義を聴いても分からない。「畳の上の水練」では泳げるようになれないのだ。

「見る」ときに大切なのは、視点だ。物事を真正面からだけでなく、いろいろな角度から見ること。そして、多様な視点を持つためには、経験の引き出しをたくさん持つことが重要だ。

 さらに、一見するとその商品やサービスとは関係がないようなことを経験すると、新しい視点を得ることができ、「基本的な質問」や「気付き」を得やすい。