世界中の国に呼びかけて「転売禁止条約」を締結できればいいが、それができない以上は、転売を認めた方が日本国民のためになるのである。

 10円のマスクを1000円で売るような真似はしてほしくないが、転売人がある程度もうけるのは仕方あるまい。彼らもリスクをとって投機をしている。新型肺炎の流行がおさまったり、マスクメーカーが大増産をしたりして、マスク不足が短期間で解消する可能性は否定できず、そうなったら大量に仕入れたマスクの販売ができなくて困ることになりかねないのだから。

コメを買い占めた強欲商人も役に立っていた

 さて、冷静な頭脳を鍛えることに慣れてきた読者には、もう一段の訓練材料を提供しよう。江戸時代に飢饉が起きた時、「コメを買い占めた強欲商人も役に立った」という話である。

 不作が予想されると、強欲商人たちはコメの買い占めを行った。コメの収穫量が例年の半分で、コメの値段は例年の3倍。人々は強欲商人を恨みながら貯金を取り崩して高いコメを買って食べた。食べた量は例年の半分だったので、人々は1年間飢えていたが、何とか次の収穫期まで生き延びることはできた。

 ここで、仮に強欲商人の買い占めが禁止されていたとしよう。コメは値上がりせず、人々は飢えることなく例年どおりに米を食べて暮らしたはずだ。その結果、収穫期から半年すぎた時点で国内の米はすべて食べ尽くされ、残り半年は食料がないといった危機が訪れていただろう。

 つまり、強欲商人のおかげで、江戸時代の日本人は餓死を免れていたのだ。それを知っている人もいないだろうし、知っていても彼らに感謝する人はさらにいないだろう(笑)。

 筆者自身も、決して強欲商人に感謝しないし、自身が強欲商人になろうとも思わないが、冷たい頭脳を働かせれば、「買い占め禁止法」を作るべきではないことは理解できる。冷たい頭脳と温かい心の折り合いを付けるのは、容易ではないのである。