共感や贈与経済で「定価」をなくす

高橋:僕は「腐るお金」ってすでにあると思いました。それは野菜や魚です。どちらもとれた直後から腐っていくじゃないですか。僕の実家は岩手の花巻ですが、今もおすそ分けやお世話になったお礼として、玄関先に野菜が置いてあったりします。三陸沿岸の漁村に行くと、玄関開けたらイクラがあったりする。おすそ分けの面白いところは、定価がないこと。またお返しすることで、関係性が続いていくことだと思います

若者の自殺、地方の衰退……「社会的不幸」の根っこにある問題は何か?新井和宏(あらい・かずひろ)=写真左
株式会社eumo 代表取締役/鎌倉投信株式会社 ファウンダー。詳細なプロフィールはこちら
高橋博之(たかはし・ひろゆき)=写真右
株式会社ポケットマルシェ代表取締役CEO/『東北食べる通信』創刊編集長。詳細なプロフィールはこちら

 2年前に亡くなった僕の父は山が好きで、いつも山菜やキノコを採ってきて近所に配る人でした。とにかく親切で、何でも分ける人だったんです。僕は29歳の時、東京から岩手にUターンして、初めて選挙に出馬したのですが、選挙活動中に「お父さんにお世話になった」とみんなに言われました。その人たちがフル回転で票を集めてくれたおかげで当選できたんです。

 今年(編集部注:2019年10月)台風が来た時も、近所の人たちが一人暮らしの母を助けてくれました。それってまさに父がおすそ分けしていたキノコや山菜のおかげなんですね。今は地域社会にもほころびが出てきて、そういう「共助」も昔に比べると少なくなっていますが、僕たちはそれを現代版に焼き直して、人のつながりによるセーフティネットや社会保障、そういう世界観を作っていこうとしているわけですね。

新井:僕が将来的にイメージしているのは、テクノロジーによる物々交換です。eumoは誰かに贈ることも可能なので、eumoの共感コミュニティのなかでみんながギフトしたくなるような仕組みを作っていけば、贈与経済が生まれます。「ありがとう」のお金がどんどん増えてくると、自分のものではなく、みんなのものという概念ができて安心感に包まれる。そうなれば、「そもそもお金はいらないよね?」と思うようになるんじゃないか。基本的にブロックチェーンで台帳を作るだけでいいよねと。

 これを実現するには、さまざまなハードルがあります。たとえば、信頼できるコミュニティをつくるために、搾取しか考えない人をどう防ぐか。僕はできれば、技術やルールで縛るよりも、みんなの善意でコントロールする方向に持っていきたい。僕たちは「善良なる管理者」としてモニタリングをしながら、健全な共感のネットワークが広がっていく状況を作りつづけていく。これが新しい金融のあり方じゃないかと。

高橋:今、スマホ決済や仮想通貨など、いろいろな通貨が出ていますが、新井さんがeumoでめざしているのは、新しい土俵を作ること。経済メリットに重きを置く既存の市場システムとは、まったく目的が違います。共感で広がっていくお金ですよね。

新井関係性を構築するには時間がかかります。今の世の中のビジネスは、大衆向けにいかに早く投資・回収できるかしか考えていないんです。僕たちはその真逆のことをやろうとしています。10年前に鎌倉投信を立ち上げた時も同じでした。当時は「運用会社なのに人様から預かったお金を社会実験に使うのか?」と揶揄されたわけですよ。でも、10年経った今は、「新井さんは先駆けですね。SDGsやESG投資の時代を見通されていたのですね」と。10年で社会はそこまで変わるのです。僕は10年先を見て話をしていますから。